いらっしゃいませ    05.20.2007
お久しぶりです。OSEIです。

ずいぶんとお留守にしているあいだに…スポンサーサイト様がこの上なく迷惑な感じになっていますね…

どうやら1ヶ月以上記事を書かないとこんなことになるらしく。
大変お見苦しい状態ににはなっております。スマソm(__)m

そして、こんな蜘蛛の巣はりまくった空き巣みたいになっているブログにお越しの皆様、本当にありがとうございます!!
とりあえず、OSEIは生きております。

ええと、当ブログは2003年頃に運営していた一般向け小説サイト『CRAWFISH TAIL』 と18禁サイト『 CRAWFISH BOIL』の復活版です。

これからも余計な労力を軽減する為にも、あえてブログ形式をとりました。
できればひっそりと、悠々閑々と運営したいと思っています。

作品により、検索サイトさまに登録しているものとしていないものがあります。
作品更新時に登録していたものも、予告無しで検索サイトさまから削除するかもしれませんのでご了承下さい。



☆ブックマークはこのページでお願いします☆



当サイトの小説の趣向は主に↓↓

-♂×♀(ボーイズラブは無いです)
-ラブストーリー
-シリアス(純愛)
-ラブコメ
-ラブエッチ
-歴史風のもの
-現代風のもの
-男装の麗人(のキャラ)

です。以上の内容にご興味をお持ちで無い方にはオススメいたしません。

また、当サイトの小説は架空の話で御座います。実在するどの団体、個人とも一切の関係は御座いません
現実(リアリティー)とフィクションの違いが分からない方も、閲覧をお控え下さい。

18歳未満の方の閲覧もお断りいたします
ご自分で責任をお持ちになった上で、当ブログをお楽しみください。


<サイトの閲覧方法>

このページを確認していただいた上で、お探しの小説を


-What a 〇×〇×!!
-Set It Off!
-仁神堂シリーズ
-超天然記念男
-きみの声が聞きたい
-短編・その他

     


-We Love木蘭!
-未年の朝
-FORTUNATE
-風に揺らめく木
-紅い涙
-手白香の姫
-仁神堂聖夜X
     

よりお探し下さい。
右側下のカテゴリー内の小説の題名は、通常そのまま第1話に直結しています。
もしお話を飛ばしてお読みになりたい場合は、カテゴリー内からINDEX 又は INDEX(旧サイト小説)に戻っていただき、お望みのページをクリックしてください。




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小説等のコメントはメールフォームをご利用ください。
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CRAWFISH BOILは基本的にリンクフリーです。
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ここ(つまり、このページ)をご利用ください。




それでは、ごゆるりとお楽しみください~♪


書庫(INDEX)    05.20.2007


 What  a 〇×〇×!!

(ジャンル:現代/ラブコメ/らぶえっち/歳の差/長編)
 ネットで出合った男達とのデートにハマッているOL水名子。彼女の平穏無事(?)な生活が昔馴染の少年、『太郎』の出現によって壊され始めて…。

元気一杯のラブコメです。

1.アクアマン セブン(プロローグ) 
2.ホームカミング     
3.土曜の夜は  * 
4.AQUAMAN7再び!  
5.フホウ侵入   
6.他人のヒミツ  
  *

7.デッドヒート  

8.ココロは雨模様  

9.デートin東京 
   
10.サンクチュアリ 
 * * *
11.リメンブランス 
  
12.ミスターパーフェクト 
  
13.スーパーヒーロー 
 
 
14.ケッセンは金曜日 
  * *
15.エピローグ 

あとがき

5万ヒット記念  Guess Who's Back?



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Set It Off!!

(ジャンル:現代/「What a 〇×〇×!!」番外編/シリーズ/18禁危険度大/長編)
『What a 〇×〇×!!』で脇役として活躍していた、佐々木翠(♂みたいな♀)を巡る人間模様。借金の借り入れを申し込んだ翠に、門田鷹男が出した4つの条件とは?!鷹男の婚約者や弟も巻き込んで......?エロエロ危険度高めの問題且つ不人気作(作者談)。
7/11/07完結。

1.翠帳紅閨 (side Beni)   * * * 
2.Set It Off !! (side Midori)  
   *
3. 万雀一鷹 (side Takao)  *
  
4. 紅色吐息 (side Beni)    * *
5. There 4 Me (side Midori)      
6. 鷹視狼歩 (side Takao)  
* *  
7.Care 4 Me (side Scramble) 
 *  
8. Give 2 Me (side Scramble) *
  
~Behind These Silver Eyes~ 前半
 後半*
(もうひとつのエンディング)
番外編 『ETERNALLY*
←up!
 あとがき





仁神堂(にがみどう)シリーズ

(ジャンル:現代/シリーズ/ラブストーリー/眼鏡秘書♂×社長♀/中編…1話のみ18禁)

女社長、國本英恵(くにもとはなえ)のもとに個人秘書として派遣されてきた仁神堂浬(にがみどうかいり)。ロボットのような彼と居ると調子が狂う彼女だったが......。NY(と日本)が舞台の、結構真面目なラブストーリー。全年齢用の旧サイト、『Crawfish Tail』に置いてあった看板小説。1話のみ18禁です。

登場人物紹介

 1 仁神堂という男
 2 夢とキスマーク
 3 茶封筒の中身

 4 聖夜と悪夢(聖夜XXXバージョンは旧INDEXにてUP!

 5 事実 前編
   / 後編
 6 仁神堂の告白

 7 嫉妬と独占欲

 8 仁神堂と社長

  番外編 『Traveling』(仁神堂×社長)

  番外編 『甘い罠』(祥子×不比等)
  番外編 『A.S.A.P.』(仁神堂×社長)
 




超天然記念男

(ジャンル:現代/ラブコメ/(今のところ)全年齢向/中編)

ファッション命!のショップのカリスマ店員、里美は伯母に頼まれて金持ちのおぼっちゃんとお見合いします。でもお見合いの相手はちょっと変わっていて、初めてのデートからして波乱万丈。一体二人はどうなる事やら??ちょっとシリアスな本編『仁神堂シリーズ』と違い、姉妹作品でただのラブコメです。ちなみにヒーローは、國本英恵社長の弟さん。ガールズパワー炸裂!のラブコメ、是非お楽しみ下さい!!


登場人物紹介

 1.超天然記念男  
 2.波乱万丈初デート 
 3.トランスフォーメーション 

 4.三人の賢者
 5.ささやかな見返り

番外編『タイムリミット←UP!





きみの声が聞きたい

(ジャンル:現代/姉弟モノ/18禁/中編予定)
超天才で美貌な弟を持つ、超平々凡々で全てが中レベルの朝倉愛理(あさくらあいり)。BREEZEに入社して一年目の彼女は、仕事に恋愛に頑張ろーと張り切ってるけど…?OSEI初!の姉弟モノ。
あまりにも人気な為、連載になってしまった出世作(笑)。

1. 二人の秘密  
1 / 2 / 3 / 4  /
2. 乙女と秘密 1
/ 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 /
3. デート?  
1 / 2
/ 3 / 4 / 5 /
4. 今更な秘密 
1
 / 2 / 3
5. ハートステーション 1 / 2 / 3 / 4  / 5←UP!

番外編 愛理は見た!』 (有料ブロマガ)
番外編 『
この声が聞きたくて』(有料ブロマガ)
三百万ヒット記念 『朝倉家の温泉旅行

 



すあしシリーズ
(ジャンル:現代物/シリーズ/純愛/ラブコメ/18禁/連載不定期)

人気アイドルグループ5人、濃いキャラ、イケメンズの恋愛模様。
笑いあり、涙あり(ないかも)、Hありのシリーズモノ。
 
第一話 べあふっと・こんてっさ 
超勘違い派手派手孔雀男、黒鳥ヒカルの大勘違い暴走劇。
彼の哀れなターゲットとなったシェフの木陽子の哀れな運命やいかに!?
ドタバタラブコメ。
 
第二話 いちごと眠り姫 
メンバーいちの人気を誇る、山本壱悟。そんな彼の想い人が帰国して…。
シリアスでエロ度数高めのラブストーリー。
以下不定期更新中



短編・その他
  • 紅い涙 ***(有料ブロマガ)  (魔界/姫君/濃い目の*
  • 沼地の湿風 (全年齢/シリアス)
  • Foolish (全年齢/主人公外国人/大学/従姉弟同士)




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アクアマンセブン    05.20.2007
ああ、また、大ハズレ。
会った瞬間、あちゃーーーーと思った。
目の前に立っているお兄さん(かオジサン)が、ネットのプロフィールに載ってる写真と
大違いだって事に、今更ながら大落胆。

いやね、なんとなくそうは思っていたんだけどね。女の直感で。

そのまま、お兄さんの油ギッシュな顔と、これまた油ギッシュに横撫でされているウェットな黒髪を観察する。
この臭い......ポマード?今時、ワックスとかじゃなくて、ポマード?

このポマードヘアの主は、目を細めながらイヤラシソウに微笑む。
「いやあ、予想以上におキレイな方ですね~。なんか、緊張で死んじゃいそうですよ。」

死ね。
イね。

でも、折角パレスハイアットの最上階までわざわざ出向いてやったんだから、食事“だけ”して帰ろう。

何が、「モデルの経験あります」だ。
パン〇ースの広告でか?

何が「長瀬〇也似です」だ。
長瀬君100キロ太らせたらだろ?

食事は、窓際の席で優雅に食べた。
...ってのは大嘘で、一気に食べた。

そして、全ての質問は
「はい」と「いいえ」だけで切り抜けた。






......寂しかった。
独り寂しく帰宅して、リビングのソファに横になる。


数ヶ月前、1年間付き合っていた彼氏に二股かけられ浮気された挙句、捨てられた。

もう、結婚まっしぐらだと勘違いしていたあたしは、再起不能に近いダメージをくらった。

合コン、コンパは楽しいけれど、あたしは本物の関係に飢えているんだと思う。
その点、ネットで出会う男達は、コンパとかの連中より多少本気(マジ)な関係を求めているんじゃないかと思っていた。

まあ、出会う場所が場所だけあって、チャットしていてポルノのスカウトマンだと判明したり、デート中にコソコソ頻繁にトイレに行ってメールチェックしている彼女持ちの男とか、やりたいだけの種馬マンとか、怪しい奴も多かったけど。

「はあーっ」
と溜息をついて、バックの中から携帯を探し出す。

『ハズレでした』
手早くメールを打つと、陽子から
『当たり前じゃ!コリないのかあ!』
と1分もしない間に返事が来た。

今度は直接、本人に電話をかける。
「相変わらず、キツイよ陽子さん」
「だから言ったじゃん。“モデル経験あり”ってヤバイよ。ヘアカットモデルだった?やっぱし」
「いや...多分赤ちゃんの頃モデルだったんじゃないかと...。」
「きゃはははは!それサイコー!見た目は?」
「パパ〇ヤ鈴木がえなり〇ずきみたいな髪型とファッションした感じ」
「ぶはっ!!!いいねえ。最高。で、なにしたの?」
完全に、面白がられてるよ。

でも、陽子と会話が出来て、少しだけ心が軽く感じる。

「食事だけ。パレスハイアットの上のイタリアン」
「うそ?!超絶景じゃん」
「でも、割りかんさせられた」
「ゲーーーーー最悪そいつ。ケチだねぇ。でも、夜景が見れただけ良かったジャン」
「慰めになってないっつの!」
「もう辞めなよー。ネットデートなんて。あたし水名子に何かおきるんじゃないかと、不安で不安でさぁ」
「うーーーっ。大丈夫だとは思うけどね」
「何で、そんなに焦ってんの?」
「焦ってないよ、別に」
「いんや。焦ってる。焦ってるようにしか見えないよ。失恋したからって、新しい恋で紛らわせようと思っても、ぜーったい無理だよ」
ううっ...ある意味図星...。
「何ていうか、暇つぶしだよ」
「ふうーーん」
明らかに不納得そうに、電話越しに溜息をつく陽子は、「そうだ」と言って話題を変えた。
「そういえば、今日弟から電話で聞いたんだけど、あんたん家の隣の太郎君、東京のW大に行く事に決めたみたいよ。明日あたりニュースになるんじゃない?」
「うそ、マジ?」
陽子とは地元の高校からの腐れ縁(=親友)で、同じ土俵(=東京)で頑張っている勇志だ。
彼女の弟は、まだ地元の高校に通っている。
そして、あたしの子分であり弟分の太郎は、8つ年下のご近所さんだ。
「推薦全部蹴って、やっぱ東京に出てくるって。太郎君、地元のヒーローだから、町も寂しくなるね、きっと」
「いや、静かで平和になるんじゃないか?」
言いながら、PCの前に移動して電源を入れる。
「だって、超無名だったうちらの母校の名前一気に全国に知らしめたんだよー?17歳でオリンピック代表になって、メダル取っちゃう子なんだよーーー?地元に名物タロウ饅頭とかまで出来ちゃった子だよ?」
いや、興奮してますよ...陽子さん。
「ああああーーー!!地元居た時は、あんたの後金魚のフンみたいにくっついて歩いて、ちょっとあほの子だと思ってたんだけど、結構なんかカッコよくなってきてるじゃん。あの逆三角形の体、サイコーよ!」
「はあ。」
陽子はちゃんとTV観てるのね。
「それより、弟君は元気?彼はどうするの?」
いつものように、ホットメールを何気なく開く。
「ああ、隆志は駄目駄目。浪人だよ。」
見慣れない、“AQUAMAN7"とか書かれているメルアドから1通受信があった。
「でも、隆志君頭いいし、国立とか狙ってるんじゃないの?」
とりあえず、無題のそのメールをクリックしてみる。

文字は一言。しかも、全部ひらがな。

『みーなへ
とうきょうのだいがくにいくぞ
たろう』

とだけ、シンプルに書かれてあった。




ホームカミング    05.20.2007
 アメリカの大学を無事卒業して東京で職を得て以来、同じ日本ながらも滅多に実家には戻っていなかった。

帰ったとしても、日帰りか、長くて1泊のみ。

まさか自分が、ゴールデンウィークの東京駅の雑踏の中を、ボストンバックかついでかき分けていくなんて、全く想像していなかった。

いつもなら、時間があればヨーロッパだとか、アメリカ国内を仕事がてら旅するのに、今年は何故か両親の住んでいる実家に行こうと決心した。

実家といっても...。あたしが14歳になった時、急に技術者の父親が本社からアメリカより帰国命...というより、左遷命令が下って地方の子会社の責任者に任命された時以来住んでいる家なのだが...。


新幹線で、数時間。
プラス、特急、各駅の乗り継ぎ含め数時間。
駅からバスで30分。
「海外行くより遠い~~~~~~~」
一時間に3本、しかも各駅停車しか停まらないような片田舎の駅に、やっと到着する。
一応、隣町の住人も利用するちーーーーーーーーーっさな町自慢の商店街が、目の前にある。
もうここ数年、過疎化が進んでいる以外、何も変わっていない。


「お母さん、迎えに来るって言ってたのに居ないし。」
時間にルーズな母親の事だ。近所のオバサン達とぺちゃくちゃ世間話でもして、娘の帰郷忘れたか。
ちらり、と腕時計に目をやる。
午後4時45分。

母親の携帯に電話してみたが、直行で留守電になった。
仕方が無いので、バスに乗ろうと(こんな田舎ではタクシーは無い...悲しい事に)、バス停のある駅の外れまで歩いて行き、丁度停車していたバスにそのまま乗り込もうとする。

と、その時。
待ったああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!
と、後ろから耳を割るような大声が聞こえた。
だんだん、救急車のサイレンのごとく、近づいてくる。

シュッ、と風を感じたかなー、と思った瞬間

キキキィーーーーーッ。

と真横でチャリがとまる。
「ギリギリセーーーーーフッ!」

はあはあと息を切らせながら、
『りんどう高校水泳部』
と書かれたジャージを着た坊主頭の男の子が自転車から転がり降りてきた。
立ったまま、両膝に両手をついて肩で息をしている。

「20分で着いたぜぃ」
「あれ?お母さんは?何でタロなの?」
タロこと山田太郎なんて超平凡な名前の少年は、弾かれたように顔を上げて、まじまじとあたしの顔を食い入るように見入った。

坊主頭ながらも、褐色の肌、前見た時よりも男らしくなった顎周りや人懐っこい黒目がちでちょっと垂れたワンコみたいな目を細めながら、満面の笑みを浮かべる。
「俺が隊長の送迎サービス名乗りでましたぁぁぁーーー!」
「隊長って、何だ?サービスって、コレか?」
あたしは、錆付いて前輪だけくるくる風車のように回っている、元気なく車道に横たわっている使い古された自転車を指差した。
「そうだよ、出張出血大サービスぅ!」
「違うだろ!」
ボコ、と坊主頭を殴りつける。

嗚呼、懐かしひこの感じ......。


この、実家の隣の中華料理店の家の一人息子は、あたしが14の時親の都合で帰国してこの地方の田舎町に引っ越してきた当時、まだ朝顔の蕾みたいなチン〇しか持っていない、3頭身の小さな子供だった。
よくピーピー泣いて、人見知り激しくて、でもお守りをしていたあたしによく懐いていた。

「じゃあ、隊長行きますよー。」
タロはそう言って、ひょいとあたしのボストンバックをグニャグニャになった籠に入れる。
この子が立ち上がった瞬間、塩素と体臭の混じった男臭い匂いが鼻を掠った。

あれ、あたしの頭一個分
「でっかくなった」
「当ったり前じゃ。成長期だぞ、俺~」
タロは自転車の椅子に跨って、木偶の坊のようにその場にぼんやり立ちつくすあたしに、手振りで後ろに座れと合図する。
「あんた、汗びっしょりじゃない。......どこにしがみつけと?」
タロの眉毛が困ったように八の字になり、「えっとー」と暫く考えながらポリポリと鼻を掻く。
「横座りしたらいいじゃんっ」
と、もっともらしい答えをだす。
「でも、そんなに肌恋しいならタロちんにしがみついてもいいよぅーーー♪」
あたしが後ろに乗ったのを確認すると、タロはペダルに足をかける。
「結構でございます。安全運転してよね」
「隊長、らじゃあーーーーーー!無敵の太郎丸発車いたしまーす」
そういうなり、チリリン♪とベルを鳴らして走り出した。



ホームカミング Ⅱ    05.20.2007
風が、とても新鮮だった。
東京の雑踏とか、喧騒とかを忘れさせる静かな心地よさ。
草木の揺れる音。
水の流れる音。
果てしなく続く、田園風景。

バスで実家まで30分かかるって事は、近道をいくつも使えば自転車だとだいたい45分前後。

タロのジャージにうっすら浮かぶ背骨のラインを見つめながら、そんな事を考える。

それにしても......すごく広い背中。三頭筋や僧帽筋、広背筋の張り方が並みじゃない。
普通のスポーツじゃここまで発達しないはずだ。

「タロ、あんたまだ水泳やってるの?」
その広い背中越しに声をかける。
「やってるよ。俺、それしか“とりえ”ないもん」
「高校では、水泳部なの?」
この日焼けの仕方は...毎日直射日光当たってるに違いない。
お肌の曲がり角を過ぎたお姉さんには恐ろしい話だけど...。
「エースでえーす!!なんちって」
「ば、ばかだあんたやっぱ...」
「この間がくりょくてすとで、最下位ですた!」
「自慢することじゃない!」
ポカ、とタロの坊主頭を殴る。ついでに、さわり心地が良いので撫でる。
「あ、気持ちいい~このグリグリ~~~」
「や、やめれ~~~~」

こんな掛け合いばっかしながら家の近所の川沿いの歩道をすいすい進んでいると、突然タロはキュキュッ、と自転車をとめた。
「?」
「ミーナ、ちょっと歩こ」
タロはそういうなり、道端に自転車を横倒しに放り投げ、あたしの返答無視で川べりに向かってどんどん歩いていく。
オイオイ、この子はあ。

小さな頃から、家から無断で脱走したり、行方不明になったり、かと思うと縁の下で昼寝していたり、転がっていったボールを果てしなく追いかけ続けて道に迷ってしまったり、好奇心が旺盛なのか何も考えていないのか、何度も警察のお世話になっていた。
共働きのおじさんとおばさんは、この変わった子にはとても苦労をしていたようだった。
だから、高校生だったあたしがこの子の子守りを3年間してあげていたのを、今だもって感謝してくれている。

あたしはただ、お小遣い欲しかっただけなんだけど。

「はやく~、ほらこっち!」
タロがとろいあたしに痺れを切らせて、振り返る。

いやね、もうあたし君みたいに若くないんで、こういう舗装されていない道を歩くの大変なのよ。今だって、ヒールが土にささ......。
「俺につかまって!」
グイッと腕をつかまれる。
半ば引っ張られるようにやっとこさ川岸に辿り着くと、タロは「よいしょ」と草の上に腰をおろした。
「あれえ?座らないの?」
「結構です」
ジャージの君はいいけど、あたしはディー〇ルのシルク装飾の着いたドライクリーニングでしか洗えないジーンズだから、無理なのよ。

「もうすぐ、日没だよ。覚えてる?よくミーナがここに連れて来てくれた」
言いながら、川面を指差す。
川面より......君の坊主頭が眩しいよ。

「そうだったっけか?」
「そうだよ!!覚えてないのぉぉぉ?!!」
タロが”ショック”という文字をそのまま体現したリアクションをしながら、見上げる。
「う、え、ぜ...全然」
「ひどひ~~~~~~~~っ!」
少年は、泣きそうな声を出す。
あんた、幾つですか。

あの頃は、ほんともうこんな田舎が嫌で、ココに越してきた父母を呪った。
毎日が退屈の連続だった。アメリカとの生活のギャップがひどすぎて、妄想の世界に走っていた。当然、彼氏なんて一人も出来なかった。

だから、憂さ晴らし...じゃないけれど、ぶっちゃけ「子守り」のこの子を実験台にして、色々遊んでいた...のを覚えている。


「俺、ここでミーナに殺されかけたんだよぅ!」
「う......」
ウッソ。そんな事、マジであったっけか?
殺人未遂じゃあーーーー!
タロは口を尖らせながらブーブー言っている。
それでも首を捻っているあたしを見て「だからぁ」と半ば苛立たしげに説明を加える。
泳げないのは漢(ヲトコ)じゃないってぇ、川に突き飛ばされた
うひゃー!そんな事したの?6歳の子供に??
んでー、溺れてる俺にぃー、向こう岸まで泳げ、って
本当に殺人未遂罪だ。業務上過失致死罪だ。
泳ぐまで、帰らせないって。何度も溺れた俺を見捨てて家に帰っちゃったっ
拷問...してたの?あたしは。
誤魔化すか笑うしかないなあ、もう。
「そ、そんな事もあったっけかー。あはは」

タロは小石を拾って川に向かって投げる。
「それからずーっと、泳いでるよぅ」
小石は、チャプ、チャプ、チャプと3回跳ねて水中に消えた。
「んで、ずーっとミーナが戻ってきたらぁ、またここの夕暮れ一緒に見ようって思ってたんだ」
そう言うなり、タロは来ていたジャージの上下と体育着の上をすばやく脱ぎ捨てる。
すっげー筋肉!!
って、いや、何でこの子こんなところでストリップはじめてんのよっ。
短パン一丁の姿のまま、タロは赤と青のコントラストをゴージャスになしている夕日をバックにズンズンと進んでいく。

いや、まさか、ネエ......。
って事が、当たってしまった。

水に入る南極のペンギンみたいにするりと水飛沫もなく水面に姿を消してしまったタロは、スイスイとクロールしてあっとい間に対岸へ辿り着いてしまう。

「ほらね~!俺、もうヲトコ(漢)だよーーーー!!!!」
対岸から手を振ってくる元気のいい少年に、あたしの開いた口が塞がらない。
「いや、もういいから、早く戻ってきなよーーーー!」
「気持ちいいよ~。ミーナも入るう?」
「いや、いいよ...。」
「チェッ、つまんねえ。あ、そうだ、もうとっくに泳げるようになったから、約束果たしてねーー。」
「約束ぅ?」

何だそれ。約束なんて、してたっけ?
「何の約束?」

〇×〇×してくれるって!
ブロロロロロロロ~~~~~~~~~
と、後ろの車道を古びたトラックが通り過ぎて、タロの言葉をかき消す。
「えーーーーー?聞こえないよ!」
耳の後ろに手をやって、もう一回たずねる。
タロは「しょうがないなぁ」とつぶやき、一段と声を張り上げる。



ヲトコ(漢)になったら、結婚してくれる、って言ってたじゃーんっ




・・・・・・・。
な、何言ってんの、この子は!
ちょっとオツムが弱いのかといつも思っていたけど、やっぱものすごく弱いらしい。
いや、ド〇ゴンボールを本気で集める旅に出ようとしたり、修行すればスーパーサ〇ヤ人にマジでなれると8歳まで本当に思っていた、このミジンコより単細胞の少年だったら、有り得る。

タロはまたスイスイと泳いでこっち岸に戻ってくる。
水面から顔を上げるなり、あの犬のような笑顔でニカッ、と微笑んだ。
「思い出したぁ♪~~?」

「いや、全然覚えてない」
「えーーーーーーーーーーーーーーーッ(怒)!!」
全身びしょびしょの少年は、非難がましく頬を膨らませながら口をとがらせる。
ごめん。でも本当に、全然覚えていないのよ。
「よって、無効。OK?」
「むうーーーー」

体育着の上で体を拭きだしたタロは、実家に着くまで始終膨れっ面のままだった。




ホームカミング Ⅲ    05.20.2007
 次にこの子に会ったのは、2日後の夜だった。
高校時代の友人数人と駅前の商店街で飲んで帰ってくる途中。
うちから100メートル位離れた、タロのご両親が営む『太勝軒』をチャリで通り過ぎようとした時、
「あああああああっ、ミーナ!」
上から大声が降ってきた。
と、間もなくドドドドド~~~と階段を下りる音がして、太勝軒の裏口のドアがバンッ、と開いた。

今日もジャージの上下。さすがに学校のジャージではなくナ〇キの白いジャージ姿のタロが、勉強をしていたのか、耳に鉛筆を挟んだまま姿を現した。
「良かった~~~ミーナにまた会えてー。もう今日は会えないかと思ったよう」
「タロ。りんどう町のジャングル隊“隊長”と呼びなさーい」
あたしは、ほろ酔い気分もあって、ポンポンとタロの頭をたたく。
「あーーーーー、さては酔ってるなー!」
「いいえ、全く酔ってません。隊員Tよ」
「酔ってる。絶対絶対酔ってる!」
タロはあたしの両肩に手を置き、じーーーーーーーーっと顔に見入る。大きな瞳が、あたしの目を覗き込む。

いや、あの、すんごい至近距離なんですが...。
若いのにニキビひとつ無い、きめの細かい肌の眉の上の産毛が夜光でキラキラ光ってる。

日焼けしまくりの体育会系の男の子にこれは褒め言葉にならないだろうけど、

ほんと綺麗。

「明日、東京に戻っちゃちゃうんでしょ」
あたしを直視している黒目がちの目が、寂しそうに翳る。

「あら、水名子ちゃん」
料理屋のドアがガラガラと開いて、中からエプロン姿のタロのおばさんが現れた。
タロはパッとあたしから手を離す。

「おばさん、お久しぶりです」
ニコニコ顔のおばさんは
「こんばんわ。もう、うちの太郎が奇声発してドタドタやっててうるさいから、何事かと思っちゃったよ。芳江さんから聞いていたけど、まだりんどう町にいたんだねえ」
「明日東京に戻ります」
「また一段とキレイになっちゃって。ほら、何だっけ、今で言う“セレブ”みたいじゃないの。ねえ、太郎」
「知らん」
「セレブって......。おばさまも相変わらずお元気そうで」
「元気元気!!もううちのアホ息子が生きてる限り、死ねないからねえ」
はあ、やっぱりまだ苦労していらっしゃるのね。おばさんも...。
「でもね、最近は“ばれんたいんでえー”にチョコレートとかもらったりしてんのよ。こんなアホの子に。毎日馬鹿やってるか水泳しかしてないと思ったら、駅前で女の子と歩いてたとか、目撃情報あるのよ~」
おばさんは、少し嬉そうに付け加える。
「う、うるさいババア!!!消えろよ!まだ客いんだろ、中~~~!」
タロは真っ赤になって慌てたように、おばさんの背中を店の方に押していく。
「また戻ってきたら、今度はうちにいらっしゃいね。水名子ちゃんの大好きだった特製餃子いっぱい用意しとくから!」
おばさんは、タロに押されるまま店の中に消えていった。

「やるじゃん、花咲ける青少年!」
「ちっがうよ!そんなんじゃないよっ!」
タロはおばさんが厨房の中に行ったのを確認すると、ドアをガラガラ閉めてクルリ、とあたしに向き直った。
ちょっと切羽詰った感じの表情をしている。
「んで、明日何時の電車なの?」
「うーん、朝10時位だと思う。12時半の新幹線に乗る予定だから」
おばさんの出現で、すっかりホロ酔い気分が失せてしまったあたしは、そのまま普通にタロの質問に答える。
「東京は、そんなにタノシーとこなのかな」
タロはぼんやりと夜空を見上げながら、独り言のように呟く。
「タノシ~よ。ここも、静かで空気がキレイで好きだけどね」
「東京はハナゲすぐ伸びる、って聞いたぞ」
「伸びる伸びる。伸びまくり」
「ミーナは、得意のえいごでつーやくしてるんだろ?」
「んー、翻訳50%、通訳50%かな」
ふうん、と呟きながら、タロはその場にヤンキー座りをして、転がっている石で地面に絵を描き始める。

「タロは、高校卒業したらどうするの?将来の事とか、考えてる?」
こんな子で、大丈夫なんだろうか?
学力は学年で最下位とか言ってるようだし。見ているこっちが不安になる。
やっぱり将来の事とか、真面目に考えてたり......するわけないか。
「俺、ミーナのお嫁さんでいいやっ。主婦でいいやっ」
「お嫁さんじゃ、ないだろゴラァ!男かあたしは!」
ドス、とウ〇コ座りしているでっかい子供を蹴る。
「なんで~~~~~?!俺、中華作らせたら天下一品アルヨ。毎日中華作るアルヨ」
毎日は...流石に体に良くないだろう。うん。
あ、でもそうか。
この子にはお店を継ぐっていう最終手段があるんだ。
「例えばさ、タロは水泳好きじゃない?」
「好きっていうか、俺それしかとりえないしぃ」
「でも、バレンタインデーにチョコもらう位だもん、モテるんでしょ?やるじゃん」
「ち、ちがっ!!!」
動揺したのか、タロはドサッと地面に尻餅をつく。顔も、坊主頭も、全部真っ赤っかだ。
いいねぇ、純情少年よ。
「照れるな、少年」
「しょ、少年じゃねーよ!!チ〇コだって皮剥けてんぞもう!!」
いやね、そんな大声でエバルような事じゃないんだよ。
「まあ、どうどう。ほら、よく言うじゃない。Boys Be Ambitiousって」
「ボーイズビー......何?」
「アンビシャス。“少年よ、大志を抱け”って有名な言葉」
「し、知らん」
「だからあ、夢や目標をでっかく持て、って事よ。例えば、水泳が好きなら競泳の全国大会で優勝とか、日本新記録打ち立てる、とか、もうぶっちゃけオリンピック行っちゃうとか。何でも良いのよ」
「目標?」
うーん、としかめっ面に変わる。
ほんと、コロコロ表情が変わってワンコみたい。

「じゃあ、ミーナの目標は何?」
突然、あたしにふられる。

あ。考えてもみなかった、かも。
もう、ある程度のお給料貰って、ある程度の生活が出来て...。いまの生活で充分だと思ってた。

「仕事を持ちながら~、お金貯めて、マンションとか家を買って~、んで、け、結婚して子供作って幸せに暮らす事...かな」
結婚イコール幸せじゃないと思うぞ。かあちゃんが、結婚は地獄の始まりだ、って言ってたぞ
ははは...。切り込むねえ、少年。
「でも、俺となら安泰だね。毎日が天国デスよ。もう、10年前に婚約しちゃったからね♪」
し・て・な・い!
「ぶぅ~~~~~~」
端っこでいじけている物体をそのまま放置&無視して、あたしは自転車を引いて実家へ向かう。
「ミーナ!」
後ろから元気のいい声がかかる。
「明日、見送りにいくかんねーーーーー!!」
後ろ手に手を振って、あたしは家の中に入った。




ホームカミング Ⅳ    05.20.2007
やっぱり、来た。

しかも、ニンニク臭い餃子が(恐らくいっぱい)入った箱を抱えて、駅の改札口で立っていた。

「朝練の前にコレ作ったよ。ハイ。こっちが水餃子でぇ、こっちが焼き餃子っ」
朝練...か。頑張ってるね。
どうりで朝隣家が静かなはずだわ。
それにしても2箱も、ですか。
「ありがとう」

朝練帰りという、今日も上下学校のジャージ姿のタロは、部活の前に早起きしてこの餃子作りに専念していたようである。

よしよし、よくやった、と坊主頭を撫でてあげると、整った白い歯をみせて二カーッ、と笑った。寝不足なのか、ちょこっと垂れ目の目の周りがくすんでいる。

「俺...さあ」
新幹線に乗り換えるH駅までの切符を買ってタロに向き直ると、少年はおずおずと指先をいじりながら言いにくそうに切り出した。

「その、ぼいずびー何とか、っていうの昨日の夜ずっと考えてたんだけどぉ」
「Boys be ambitious」
「そう。それそれえー。んで、その何とかっての、見つかったよっ」
「へえ。良かったじゃん」
「男は、有言実行だからねっ」
「おう。いいね」
「だから俺、泳ぐの好きだしオリンピック行くよ



は。



はあ?
「だから、オリンピック行くよ」
いや、ちゃんと聞こえました。
夢......でかすぎないか?

ま、まさかあたしが昨夜“テキトウ”に言っていた事、真に受けちゃったの?
あああああーーー、あたしの馬鹿馬鹿!!
この子昔からあたしのホラ話を本気にしちゃってたんだ。
ミジンコ以下の単細胞だったんだ。
忘れてた!

「それでー、金メダルとったらぁ、改めてミーナを迎えに行く」
いや、それは永遠に無いと思う...。
あっても困るけど。

「じゃ、約束だから」
言うなり勝手に手を取られ、ものすごい早口で『ゆびきりげんまん』をして、辺りにニンニクの匂いを撒き散らしたまま、少年は風の又三郎のごとく消え去った。





そう堂々と宣言した少年に再び会うのは、ここから2年後の春のことである。



土曜の夜は♪    05.20.2007
 2年後に戻って、まだ寒い2月中旬。

麻布〇番のレインフォレストレストラン。
アマゾンチックな草木があちこちから生えた、ジャングルを模した装飾と象さんとか派手な色の鳥さんとか、巨大植物(?)を模った置物が、1時間ごとに「パオ~~」と鳴き出し、効果音とチカチカする電気効果でスコールが降ったようなイベントが起きる。

こういうトコ、結構好きなんだけど…もしかして初デートにはちょっと印象悪いかな。

久しぶりの、ネットデートだった。

わざわざ印刷までして持ってきた相手情報を再確認する。

HN:KARA55
31歳
独身
東京都在住
身長178cm
体重58kg
IT関係勤務
趣味は映画鑑賞、ドライブ
女性の好み:明るくて面倒見の良い可愛らしいタイプ

ちょっと、あたしと出会う為だけに生まれてきたようなもんじゃない、この男!
なーんて大勘違いしそうな勢い。
プロフィールに乗っていた写真も、なかなかな感じだったし、数回チャットしてみたけれど、高感度◎だった。

うん。なんか女の勘で、今回は上手く行きそう。

メイクは完璧。
服も男受け第一のエ〇ちゃん系JJファッション。
いつもはストレートのセミロングも、ふんわり巻いてみた。

ああ、リップグロスが乾いてきた…。もっかい塗っとこうかな。
と、化粧ポーチをまさぐっている所に、
「小俣さん?」
上から、男らしくてちょっと鼻にかかった渋めの声が降ってきた。
「唐沢さん、ですよね?」
もう十何人もネットで出会った男達とデートを重ねてきて、実は結構慣れてきた。

1.小首をちょっと傾げて『清潔な』(←ミソ)笑顔を称えながら小さく一礼する。
2.顔を上げて、上目遣いに男をチラ見するふりして『瞬時に』かんさつする。
この時口元はジェロ風アヒルぐち。

顔よーし。
頭髪よーし。
身なりよーし。
腹と顎の下の脂肪0%よーし。

結構…いい男じゃない。写真そのまま!

「待たせてしまいましたか?」
唐沢さんは「申し訳御座いません」と本当に申し訳なさそうに謝りながら、あたしの前の椅子に座る。
「いえ、私も今来た所です」

嘘よーーーーーーーーーーー!

もう30分も待っていました。貴方の事を。
「面白い雰囲気の所ですね。この間雑誌で特集されていましたよ。女性に人気みたいですね」
ニコリ、と微笑む。
あ、ちょっと歯が黄ばんでる。タバコ吸うのかな?

狂言師の何とかって芸能人に似てるなあ…と思いながら、唐沢さんの面長な顔や(浮世絵?)、ふっさりと軽くボディーパーマがかかっているらしき髪形(あと10年はハゲないでしょ)、細めながらキリリと男らしい瞳をまじまじと観察する。

今まで出会った男達の中で一番まともかも…。

「小俣水名子です。ちょっと…唐沢さん見て安心しちゃいました」
男心をくすぐる言葉その1オッケー!(←心の中でガッツポーズ)
「え?僕が、ですか?」
「私、こういうオンラインのデートサイトで出会った方とデートとかって初めてで…」
本日の大嘘その2。
もう何回もデート経験済みです。ハイ。

でも、久々に散財してお洒落してよかった。
パンツまで新品ですよ。

「実は、僕もなんですよ。だから小俣さんに実際にお会いして、写真と同じだなって思ったんです。良かった」
「え、そ…そうなんですか?それはあたしも...良かった」
「あの、何か注文しませんか?ええと、メニューは、と」
「そうですね。お腹減りましたね」
と、あたし達はメニューを眺める。

『ミラノ風カツレツアマゾンソースがけ』
『NYビーフステーキアマゾンペッパー味』
『ほうれん草と肉のラザニアアマゾンマッシュルーム入り』
の3品が目に飛び込んでくる。
…なんだこの『アマゾン』づくしは。

でも、食べたい!
いやきっと全部1品1000カロリーはするよ絶対。
「う~ん、水名子迷っちゃうなあ~vvv」
大嘘その3
小首を傾げながら、でも視線はこの3品に釘付け。

食いて~~~~~。

「僕はじゃあ、ミラノ風カツレツ…あ、でもラザニアもいいなあ。でもやっぱ、NY風ステーキにしておこう」

……見てるモン一緒じゃない。

「小俣さんは?」
唐沢さんはパタンとメニューを閉じテーブルに置く。

あたしもステーキ………
アマゾンで採れたハウスサラダで

ああっ、女のプライドが食欲に勝った!
小さく「きゅるるるるるる~」とあたしのお腹が不満足そうに悲鳴を上げる。
「それだけですか?」
「え、あ、はい」
肉が食べたい~
「少食なんだ、小俣さんは」
いいえ全然
あなたが選ぼうとした3品全部食べれる自信あります。
「そんな事無いですよ。唐沢さんはワインとか飲まれます?」
「僕はビールが飲みたいかな。小俣さん、赤?白?」
「赤のメルローで」

ウェイターを呼んで淡々とオーダーを告げる唐沢さんは、オーダーを終えると
「それで、何から話そうか」
と私に向き直った。
「唐沢さんはIT関係の会社にお勤めなさっているんですよね」
「実は、友人と2人で1年ほど前に会社を立ち上げたんだ」
え、経営者?
でもあまり根掘り葉掘り聞くと金目当てと思われるので、今回はそれ以上切り込むのを避けよう。

「私は、フリーランスではないんですけど、今の会社では主に商業目的な商品や広告をを英語に翻訳とか通訳しているんです」
「へえ、どんなの?」
「技術関係の日英訳とか、小説、映画の翻訳が主なんです。契約している会社から依頼があれば通訳もしたりしますけれど」
「僕、仕事の関係でよくシアトルとかシリコンバレーに行くよ」
「じゃあ、サンフランシスコとかって行ったことありますか?私、そこで14になるまで育ったんですけど」
「あるある!毎年行ってるよ!そうかあー。いいね、カリフォルニア。アルカトラズとか行った?」
「中学の頃学校のクラスの一環で行きました」
「坂とか、家とか、いいよね~。あ、来た来た。じゃあ、乾杯しようか」
「はい」
共通の話題が出来てちょっと嬉しくなる。
あたしの腹は相変わらず小さな主張を続けてるけど。

「じゃあ、君の瞳に乾杯!」
君のひと……?
ふ、古い
トレンディドラマ世代?
「か、乾杯ー」

あたしたちはグラスを鳴らしてこの出会いを祝った。



土曜の夜は♪ Ⅱ    05.20.2007
 気付くとあたしたちは、六〇木のラブホの一室になだれこんでいた。
狂ったようにお互いの衣服を脱がせあって、狂ったように唇を重ねる。

土曜の夜は朝まで君を抱く~~♪
もうチャゲ〇スがあたしの今夜のテーマソングだ。
あたしの脳内で勝手に再生(プレイ)されまくっているその曲をBGMに、熱く熱くお互いを求める。
もう土曜の夜の唯一の楽しみのめちゃ〇ケなんてあたしの頭からすっかり抜けていた。


きっとこの人、手馴れてる。
だって気付いたらあたしはベロベロに酔っていて、気付いたら体が熱くなっちゃってて、気付いたらタクシー捕まえてラブホに直行していた。

「あっ…」
耳のすぐ下を舐められて、体に電撃が走る。
「ここが、感じるんだ…」
唐沢さんは見つけた、とばかりにそこに熱い息を吹きかける。
耳たぶを咥えられて、チューッと吸われる。

そのキスが首筋、鎖骨と降りてきて、胸の上で止まる。
半分脱げていたブラウスを手早く脱がされて、ブラとスカートだけの姿になる。
薄いブラの上からあたしの胸の頂を、やさしくかじられて...。
「あんっ唐…沢さんッ」
唾液でだんだん湿っていくブラ。
「んんっ...」
そのうち、ブラが押し下げられてあたしのピンク色の頂がプルンと現れた。
「すごいよ、小俣さん…。もうココが固い…」
つんつんと舌先で頂をつつかれる。
焦らされてる…。
「舐めてもらいたい?」
意地悪くその先端に息を吹きかけながら唐沢さんは聞いてくる。
欲しいに決まってるじゃないの!
「うん…...」
「どこを?」
唐沢さんはわざと先端を避けて、輪郭を舌でなぞる。
「ああん!」
「ここ?」
また彼の舌が輪郭をなぞって一回りする。
まだ、焦らしてる。
「ちがっ…う」
「どこかな?」
ああもう、大人の男の余裕だ。
それも結構経験豊富な。
「さ、先っちょ…」
「へえ。どんな風に?こんな感じかな、水名子さん?」
ぺろり、と少しだけ舌が先端を擦る。あたしの反対側の胸は、彼の親指で弄ばれている。唾液をつけて、捏ね回したり、軽く押したり、つまんだりして、彼の親指が彼の舌と同じような動きをする。
「ひゃあ!あああん!!」
あまりき気持ち良過ぎて、不覚にも大きな声が出てしまう。
「いい声だ…こっちはどうかな?」
唐沢さんはあたしのミニスカートを上へ押し上げて、下着姿のあたしの恥骨を手で包む。
「湿ってきてる。感じてるね」
なにこの余裕。
やっぱ、この人…やり〇ン

あたしは一気に彼の服を剥ぎ取りたい衝動を抑えて、受身に徹した。
唐沢さんは執拗に胸の頂をやさしく吸ったり舐めたりしながら、ゆっくりと時間をかけて指を一本下着の中へ侵入させる。
「あっああっ」
蜜で濡れ始めた周りの襞をぐるりとまわって、上のほうの突起を探られる。
「いやん!」
一段と大きな声が漏れてしまう。
「ここが、一番気持ちいい?」
「う……うん…」
蜜をすくってはコリコリとそこをイジメル。
「これ、下ろしていいかな?」
唐沢さんは、あたしの最後の砦を剥ぎ取るとM字に足を開かせた。

今朝処理しておいて、良かった。

あたしの足元にうずくまると、唐沢さんは顔を寄せて指で再び弄り始める。
「水名子さん、すごい濡れてるね」
クチュクチュと音を立てて蜜壺に指を出し入れ始めると
「あっあっあっあっ!」
あたしもそれに合わせて思わず声が出てしまう。
その上、唐沢さんは舌であたしの花弁の上の小さな突起を舐めたり吸ったりしだすものだから、
「あああああああん!」
だんだんとシーツを握り締める力が強くなる。
「あああんっ。あああんっ」
その卑猥な指と舌の動きがだんだんと執拗になって...
「ああああーーーーーーっ!」




あたしの目の前で火花が飛んだ。






「ごめんなさい。あたしだけ......」
「いや。気持ちよかった?」
まだ熱く疼きながらも正気に戻ったあたしは、体を起こした。

唐沢さんが欲しい...な。
きっと彼もあたしが欲しいはず。

あたしは、急いで彼のベルトのバックルを外しにかかる。
「あ、いいよ。僕は...」
唐沢さんは、身を捩ろうとしたけれどあたしの手の方が早かった。








あ、あれ?あれれれれ?




てか、全然、これっぽっちも固くなってないじゃないのお!!
「あ、水名子さん、いいよ。いいから!」
フェ〇で気持ち良くしてあげようと更にベルトと格闘を続けるあたしを唐沢さんは押しやる。
「私ばっかりで...唐沢さんにも気持ちいい事してあげたい」
四つんばいになったまま、上目遣いで彼を見つめる。
もの欲しそうな顔で。
絶対、効果あり

はあーっ、と唐沢さんは大きく溜息をつくと、着ていた服を脱ぎ始めた。
そして、裸になってベット上にゴロリと転がる。
彼の分身は、元気なく首をうな垂れている。
「じゃあさ、頼んでもいいかな?」
あたしは、弱々しい彼の息子を両手で包んで口を寄せた。

「あ、待って!」
と、唐沢さんが、突然あたしの行為を止める。
「本当に、僕に気持ちいい事してくれるのかな?」
あたしは、うんうんと頷く。
はやく、このマシュマロみたいな物体を口に含みたい。
「それなら......」
唐沢さんは、ちょっと思案したように一息ついて、一気に吐き出した。











「僕の袋を蹴ってくれないか」







え、幻聴?










「思いっきり、蹴ってくれないか?」







はい?











「そして、これを紐で縛ってくれないかキツキツに。紐は僕の鞄の中にあるから」













............。

唐沢さんは、Mだった

土曜の夜は♪ Ⅲ    05.20.2007
 「ちょっとちょっと~、久々の当たりだと思ったのにぃ~!!!」

そのまま朝を迎えるのはとても気が引けたので、玉蹴りプレイが終了して唐沢さんが幸せそうにイったのを確認すると、あたしはそそくさと身支度をしラブホ(と唐沢さん)からおさらばした。

眠れない朝を迎えて早速陽子に電話をかける。

「元気ない声ですぐ分かったよ。こんな時間に電話来るって事はもしかして...」
「寝ちゃいましたよ」
「あちゃ~。1度目のデートでですか?病気持ちだったらどうするの?気をつけないと」
「うーん。だって、結構テクニシャンだったんだもん」
「まじで?何が駄目だったの?」
「見た目は、結構好みだったのに」
「だったのに?」
「唐沢さん、Mでした」
「わお!何したの?何したの?プレイしたの?」
ああ、また陽子に笑われてる。
「30分位ずっと蹴ってた」
「何を?」
玉を。履いていたヒールで。唐沢さん、うなされながら気絶寸前でイったよ。すんげーこっちの後味悪い
「あはははははははは!痛そう。っつかそれ真性のマゾだ!」
「あーあ。もう絶対SMなんて嫌だ」
リビングのソファーにダイブインしたあたしは、TVのリモートを手にとって何気なくつける。
経済論系の番組。
「もう会わないの?」
「......多分。あたしのネットデートの旅はまだまだ続くよ」
はあー、と大きく溜息をつく。

あれやこれやと日本の政治経済に一言二言物申しているおっさん達の番組は、気づいたらコマーシャルに入っていた。

「あれ?」
2つ目に流されたCMに、見知った顔が画面に映る。

『銅メダリスト、山田太郎はリフレッシュマンでエネルギー摂取!』
ゴーグルをはめてプールの淵でヨーイドンの体勢のタロの顔が、どアップで映る。

オリンピックの中継や記者会見以来、この子の顔をTVで見るのは久しぶりだ。
「タロがCM出てるよ」
「大森製薬の滋養ドリンクのCMでしょ。なんか太郎君の幾つかついてるスポンサーの一つらしいよ」
「へえ。やるじゃんタロも。ってか奴の性格からすると滋養ドリンクなんて無くても1年365日天然ハイパーでしょ」
「あはは。言えてる~」

画面の中のタロがゴールしてプールの中でガッツポーズをする。
あ、これオリンピックの時の映像だ。
『リフレッーーーーーシュッ!』
最後に、あの犬のようなでっかい笑みが画面一杯に広がった。

「タロ君、ホント男らしくなったねえ」
同じCMを陽子も見ていたのか、次のCMが流れ出すと陽子が切り出した。
「タカシが言っていたけど、太郎君地元ではずっと成績学年最下位だったみたいだけど、運動はずば抜けてたらしいよ。水泳だけじゃなくて、あらゆるスポーツでもうある意味超人の域に達してたらしい。あと、ああ見えて負けず嫌いで有名だったんだって」
「へえー。タカシ君とは顔見知りなのかな、タロは」
「同じクラスになった事が何回かあったみたい。正義感強いし優しいし、太郎君意外と女子に人気だったらしいよ」
タロのおばさんが駅前デート目撃情報を自慢していたのを思い出す。
「それにしても...。ぷぷっ。“女子”だって。懐かしい、その響きー」
「先生だんしがあ~、じょしがあ~、とかよく言ってたよね。社会人になってからはトイレとか更衣室以外使わない単語だよね」
「確かにー」

あ、話しているうちになんだか心が軽くなった。

陽子と電話を切った後、あたしはTVの電源を消して、PCに向き合った。
デートサイトの自分のプロフィールに送られてきてるコメントをチェックする。


今度こそ、いい人にめぐり会えますように!

 4月。
3月末から咲き始めた春の象徴である桜が散り始め、緑色に染まり始めた頃。

「ふえっくしょーい!」
だけど、花粉症のあたしには花見なんて縁遠い。一年で一番辛くて苦しい時期。

ここ1ヶ月NYで兄弟会社の立ち上げもあり、仕事で長期出張していたあたしは、オンラインデートもチャットもそこそこ、大人しい毎日を送っていた。

と、いうのは言い訳で、唐沢さんとの“事件”以来ちょっと臆病になっていた。

今日もいつもどおり世田谷のアパートに帰宅したあたしは、冷蔵庫の残り物を確認して、夕飯を作っていた。

そう。いつもどおりの平穏無事な一日...になるはずだった。



ドンドンドンドンドンッ

インターホンがあるにもかかわらず、玄関のドアを激しくノックする音。
誰だろう、と覗き穴から覗き込む。
が、ドアの向こうにいる人物も同じく覗き穴を覗いているようで、そいつの拡大されたでっかい目だけが見えた。

「うわあっ!ど、どちら様ですか?」
吃驚して思わず後ずさると、
「み~な~~~~~~」
と聞き覚えのある頼りない声。
「タ、タロ!」
あたしは鍵を外して、バッとドアを開けた。
「ハラヘリッヘリハラッ~~~腹減ったあ~~~~~」
傷だらけの黒いスーツケースを手に持ち、ボロボロのスポーツバックを肩に担いだ上下MIZ〇NOのジャージ姿のタロが立っていた。

一番先に目が行ったのは、ちょっと男らしくなった顔でもなく、伸びた背でもなくて、スタイリングもクソも無い四方八方へハネまくりの髪の毛

へえ、坊主じゃないんだもう。

「道に迷っちゃったよう。正反対の4丁目ずーっと歩いてた」
正反対の4丁目?
「あれ、あんたなんでココ知ってんの?なんでココに居るの?」
「ミーナのおばさんが住所教えてくれた。『何かあったら、水名子頼りなさーい』って」
「んで、何かあったの?」
「ハラが減った」
バコ
ゲンコを飛ばす。
「ハラが減ったじゃないでしょ!W大に行ってるんじゃないの?寮は?」
「カル...カルボーン?違うなあ。め?」
「め?」
「めるぼーんの帰り」
「めるぼーん?何だそりゃ?」
「FINAの大会」
「FINA?フィーナ?」
聞いた事無いな。
「ワールドちゃんぴおん何とかぁ」
「World Championship!メルボルン?まさかあんた、メルボルンから帰ってきたの?!」
「そう、それそれ」
適当に相槌を打ちながら、タロはさっさと靴を脱いでズカズカと1LDKの小さなアパートに侵入する。

「ああ、いいにほひ~~。これはグラタンのにほひ~~~~♪」
「あーもう、荷物そこ置かれると邪魔だからソファの横!あーーーーーーっ、それに触らないーーー!!」
好奇心一杯の小学生の如く、アパートの中を徘徊し部屋の家具小物一式を一通りチェックしようとするタロをソファに座らせて、あたしは再び夕食にとりかかる。

「久しぶりだね、ミーナ!ああっ、このソファミーナの匂いがするぅ。良い匂い~♪」
「嗅がないの!あんたは犬か!んで、えーと、2年ぶり、だっけか?」
「そうでーーっす」
「髪の毛生えてる」
あたしはタロの頭を指差した。
「あーコレ。ボーズの方が楽だったよぅ。でも、皆伸ばした方がいいって」
「ふうん。似合ってたのに」
あたしは、手早くアボカドサラダを作ってとりあえず図体のでかい子供に出してみる。
背も、ずいぶん伸びたみたい。
いつまでが成長期なんだ最近の子は。

「あんたも、色々と頑張ったんだねえ。もう超有名人じゃない」
リビングのタロを振り返ると、もうぺロリとサラダを平らげている。
「そうかな~。別にぃ......」
「TVとかCMとか色々引っ張りだこなんでしょ」
「う~ん、俺、そういうの全部“えーじぇんと”にまかせてるから」
「エージェントついてんの、あんた?」
もう既に芸能人扱いですか。
「そ。俺、言われた事しかやってないから分かんなーい。あ、そうだ!」
タロは突然何かを思いついたらしく、ソファの横をでっかく陣取っているスポーツバックを開けると中から何かを引っ張り出した。

「見てみて!これ今回のメダル達」
他の濡れた水着やらクチャクチャな服やらの中にそのまま投げ込まれていたらしきソレらは、シルクのリボンがクタクタ、ヨレヨレになっているにも関わらず、神々しい金の輝きを放っていた。

「おお!金メダル。本物?」
「2個メがこれでー、こっちが平泳ぎっ♪イアン破ったぜい!」
イアン?
イアンってイアン・〇ープの事?
「やっぱ、オリンピックのメダルとか全部とってあるの?」
「俺が持ってるとナクスから、母ちゃんが全部持ってる」
そりゃ無くすだろ。こんな風な扱いしてたら。
もう既にメダルのケースの中に入ってないし。
あたしはメダルを手にとってまじまじと観察して、タロに返した。

キッチンに戻りグラタンをオーブンに入れて待つ間、冷凍野菜をレンジで解凍して皿に盛る。そして、赤ワインをグラスに入れてリビングに持っていく。
タロには麦茶を手渡した。

「すごいじゃん。ホントオリンピック行っちゃったね。夢が叶ったじゃない。よくあんたの顔テレビで観たよー。特に去年の夏から秋にかけて」
「んや。夢かなってないよ。金じゃなかった
「別にいいじゃない、代表になる事からして凄いのよ。ましてやメダルを取れる、って事すら、歴史に残る大快挙なのよ!」
「ダメ。金じゃないと意味がナイよ。ダキョウはイケナイ」
「はいはい。じゃあ、もしかして3年後も狙ってる?」
「ずえええぇぇぇーーーーーーーったい、取るよ俺」
そう言い切って、ニカッとスマイルのタロ。

「あ、それで寮は?もう閉まっちゃってたの?」
まさか大学の寮が夜7時に?
戦前の女学校じゃあるまいし。
「う.........」
言葉に詰まった模様のタロは、意味も無く手に持ったメダルを揺らしたりクルクル回したりしている。
分かり易いな、オイ。
「まさかまだ、入寮してないの?」

しーーーーーーん。返答なし。

図星、か。
「やだ、もう入学式とかあったんでしょ?学校開いてるよね?」
「......知らん......」
声、小さいよ。
「多分俺、出席しなくても大丈夫...と、オモウ。特待ニュウガク生だから」
「そうなの?W大って最寄り駅何駅だったっけ?」
「......知らん......」
「ああもう」と、自分のエルメスのバックからスケジュール帳を取り出し、後ろの方のページをめくる。
あった、電車マップ。
「あった、R駅!ええと、ここからS駅まで行って、S駅から私鉄に乗り換えて3つ目。そんな遠くない。.....って、聞いてんのあんた?
一生懸命なあたしを差し置いて、タロはテーブルの上に広がっている書類とにらめっこしている。
全部、翻訳用の書類。

はあ、と溜息をつく。
ホント、この子は流れていった年月を全く感じさせないで付き合える。
もし、多分どっちかがアマゾンの奥地から20年ぶりに生還しても、こういう風に自然なままで居られる貴重な存在だ。

「え。何、ミーナ?」
反応遅っ!
「だから、ご飯食べたら、とりあえず寮に行きなさい」
「えーーーーーっ。泊まっちゃダメなのぉ?ブーブーブー!ブーイングゥ!」
「駄目」
にべもなく断る。
大学1年生になったんだっけか。
喋り方はちっとも変わっていない。
いや、心なし精神年齢反比例してない?退行してない?

「多分、ここからW大までは乗換えがうまくいけば電車で20分もしないで行けると思う。駅からあんたの寮までの時間次第」
「あ、やっぱ近いんだあーー。良かったぁ。W大選んで」
「良くない!てか、何が“やっぱ”なの?」
「大学スイセンあって、先生に世田谷に近い大学はどこですか、って聞いたら奨学金とか条件が良いからW大にしなさい、って言われたから。特別にゅうし~っ」
「なんで世田谷がいいの?」
「そんなのミーナがいるからに決まってんじゃんっ。俺、東京の事なーんも知らんもん。ミーナがいたら、頼りになるしぃー」
「た...単純だわあんた...」
に、2年以上連絡無かったのに、何だコイツは。
悪いけど、もうベビーシッターは出来ませんからね。


思考回路宇宙人だし
人の話聞かないし
単純ミジンコだし
おまけに他力本願と来た。

タロはテレビ横のDVDを発見して、1つずつ手に取る。
「すっげーなあ。ぜーんぶ英語だあ」
その中の映画数本を取り出して、タロに見せる。
「コレとコレ。翻訳手伝ったの。こっちはメキシコ映画」
「メキシコ?メキシコって、英語?メキシコ語?」
「スペイン語です!」
「ミーナはスペイン語も出来るの?」
「あのねえ、こういう翻訳会社は最低3ヶ国語以上が完璧じゃないと雇ってもらえないのよ。バイリンガルなんて石投げれば道端にゴロゴロ転がってる時代よ」
うおーーー、すげーーーー!と感嘆の声を上げて、タロはまじまじとそのDVDを見つめる。

あたしは、そんなタロをそっと観察した。
ちょっと頬がこけて、顎周りがいちだんと男らしくなった。
相変わらず日焼けした浅黒い肌。
クチャクチャだけど、ちゃんとカットされた塩素で毛先が茶色くなっている黒髪。
スイマーだけあって、広くがっちりとした肩、上半身。
185cm?はいってそうな背丈。

成長したね。

「ねえミーナ。ちょっと寮に連絡しようかなぁ。した方がいいよねー?」
「当たり前でしょ。番号知ってるの?」
「うん。確かどっかに......あった」

スポーツバックを丸ごとひっくり返して、ガサガサやっているかと思うと青い紙切れを探し出した。

ああもう、床にゴミも屑も全部散らばっているし(泣)。
明日掃除しよう。

「俺ケータイ持って無いんだけど...ミーナ貸してくれる?」
「今時携帯持ってないの?」
「うん」

うんじゃないだろう。
何て不便な!
でも、野生児のこの子なら100%あり得る話だ。
彼のエージェントとやらも大変だ。
数々の失踪事件を起こしているこの子を捕まえるのは。

そういえば、この間のAQUAMAN7のメールも全部ひらがなだった。
きっと指一本でキー打って、変換とか使い方を知らないのだろう。
「いいよ、ホラ」
チャージしていた携帯をタロに向かって放り投げる。
オーブンの中のグラタンのタイマーがピピピと鳴ったので、あたしは再びキッチンへ戻った。


「ハイ。ハイ。ハイ。......多分そうす。あ、ハイ」
夕飯を狭いダイニングのテーブルに用意して、リビングのタロを呼びに行くと、彼はまだ電話中のようだった。
あたしが来たのを確認すると、電話の相手に「スミマセン」と断ってあたしに向き直る。
「ミーナ、ここって最寄り駅T駅だったけー?」
「そうだよ」
あんた電車使ってここまで来たんじゃないの?
と、喉まで出かかった言葉を抑える。
タロは再び電話に戻る。
「T駅だそうです。ハイ。ハイ。えっとー、多分10時までには行けると思うっす。ハイ。ハイ。分かりました」
すばやく会話を終えて、携帯をあたしに返す。
「ありがとーっ。助かったあ」
「何だタロ。あんたまともに喋れるじゃん。ちょっと体育会系っぽかったけど」
喋り方トロいし、常識無いし、いつも他人との会話がどうなってるのか疑問だったんだよね。
「当たり前じゃーーーー!!タテ社会で何年生きてると思ってんだよぉ!」

そうだよね。
スポーツの世界って上下関係厳しいもんね。

そう言えば、オリンピックのメダル取った時の記者会見も、口数少なかったけど“普通に”喋っていた。
「大人になったね、タロ。成長したよ。お姉さん感心した」
小さなアパートの中の、2人も居たらキュウキュウのキッチンへタロを呼んで、これまた小さなテーブルで2人ご飯を食べる。



こうやって2人でご飯も...12年ぶり?両親が外出時の留守番の時以来よね。
あの頃はあたしもピチピチのティーンネージャーだったし、タロはまだあたしの半分位だった。

テーブルの向こう側のタロを見上げると、相変わらずワンコのような垂れ目と目が合った。

にかぁ
愛嬌のあるスマイル。

「ミーナはずっと同じ。ずーっとずーっと、俺にとっては大人で遠い世界」
「そりゃああんたより8つも年上だもん。大人ですよ。8歳の差を近道されてたまりますか」
あたしは熱々のグラタンを火傷しないようにフーフーしながらゆっくり口に運ぶ。
「歳なんて関係ないよ。ただの数だもん」

数じゃないだろ。
数だったら、年々深くなる眉間の皺や張りの無い肌、ホウレイ線を説明してくれ

「でも、ミーナ全然変わってない。外も中も。俺のミーナのまま」
「うそ?ちょっとすっごい嬉しいんですけど。お世辞でも嬉しいかも」
「お世辞じゃないよーっ。俺、お世辞とか言えないもーん。......でも」
タロはグラタンも野菜もぺロリと平らげ、皿を突き出す。
「おかわりっ」
「おう。どんどんお食べ。お姉さん大サービスしちゃう」
「わーい♪やったね!」

再びグラタンと野菜を一気に食べつくしてしまったタロは、先ほどひっくり返したスポーツバックの(ゴミの)中から薬瓶のようなものを幾つか取り出す。
「それ、ビタミン剤?」
「そうだよ。あとー、アミノ酸。キンニクの素。むっきむきぃ~」
タロは水無しでゴクリと数錠の錠剤を飲み干す。

「あっ、そうそう、んで、俺が言いたいのはぁ~」
話......まだ続いてたの?
「でもあと少しでミーナの世界に行けそうだな~、って事」
「あたしの世界?」
「ミーナの世界」
はあ。

そうちんぷんかんぷんな事を言うとタロは
「デザート、デッザートォ~~♪」
と冷蔵庫の中を開けデザートの物色を始めた。



食事の後。
駅までの道順と乗り換え案内をわざわざ地図にまで書いてタロに手渡したあたしは、「帰りたくないよー」と愚図るタロの背中を押して、さっさと家から送り出した。

タロが寮に無事着いたかどうかが心配で、30分もの間ずっと悶々とすごしていたあたしは、食器洗いを終えリビングを片付けていると、テーブルの上に置きっぱなしになっている2つの金メダルに気づいた。

「こんっな大事なモン忘れて......。ほんっと馬鹿なんだからもう!おばさんに叱られちゃうわよ『また無くし物』って」
プンプンと怒った所で、溜息をつく。

ああ、馬鹿はあたしだ。
だって、なんかタロに会って、昔と全然変わっていなくって、タロはタロのままで......。

何故か安心した。




フホウ侵入    05.20.2007
HN:SAKASHIN-34
34歳
独身
神奈川在住
身長175cm
体重55kg
研究員
趣味は美術館巡り、寺社巡り
女性の好み:特になし


あたしは再度今回のデート相手の詳細を確認した。
出張から帰ってきてからここ何回か、この『SAKASHIN-34』さんとチャットしている。

この『女性の好み:特になし』っていうのが多少気になるんだけど、今回もJJ系OLファッションで身を包んだ。
「ようし!!」
唐沢さんとのSM事件以来のデートなので、気合を入れる。
「会話してて変だと思ったら、即効帰ろう。うん」
自分に納得させるように独り言を呟いて、頷く。

待ち合わせは横浜在住の彼に合わせて、無難に桜木町駅前。
約束の時間より15分も早くついてしまったあたしは、バス停前のベンチに腰掛けて『SAKASHIN』さんが現れるのを待った。

5分も経たないうちに黒のA〇DIが横付けされて、窓がウィーと降りる。
「OMAROSEさんですか?」
眼鏡をかけた男の人が顔を出す。
この人だ。
「あ、はい。あの、OMAROSEこと小俣水名子です。えっと、SAKASHINさん?」
クスリ、と眼鏡の主は微笑む。
「坂口です。どうぞ、乗ってください。ベイブリッジでもドライブに行きませんか?」
言うなり、坂口さんは助手席のドアを開けてくれた。


隣で運転している坂口さんを、失礼にならない程度にチェックする。
顔は...福山〇治似?それに眼鏡をかけた感じで...。

今までのデートの相手の中で一番イケメンかも!

嗚呼、サ ク ラ サ ク・ ・ ・ ・もう満開!ブラボーーー!!!


「僕の顔に、何かついていますか?」
はっ。
観察しすぎだ。
「い、いえ、眼鏡をかけていらっしゃるんだ、と思いまして...」
「コンタクトレンズが合わないんです」
「たまにそういう方いらっしゃるみたいですね」
「水名子さん、ベイブリッジには?」
「前に...1度...」
元彼とね。
「元彼、とか?」
う。
お察しどおりで。
「はい」
「ベイブリッジを渡るとそのカップルは絶対結ばれない、っていうジンクスあるの知ってますか?」
「え、そんなジンクスあるんですか?」
「有名らしい。だから、僕達で試してみませんか」
「はあ」

この人...ロマンチスト

「僕は超現実主義者ですよ。だから、霊とか超能力とかジンクスだとかそういう根も葉もない噂は信じない」
サイババですか、お兄さん。
あたしの心を読んだみたいに坂口さんは先に答える。

「なんか、坂口さん読心術に長けていらっしゃるみたい」
「そうかな」
ちょっと人を突き放した冷たい感じのタイプ。

でも、良い男ーーーーー!

季節も新緑の春だけど、あたしの心も氷河期が過ぎて春が近づいている

「水名子さんは、翻訳の仕事をしているっておっしゃっていましたよね」
「ええ。坂口さんは、何か研究をしていらっしゃるんですか?チャットで何かそんな事を書いていらっしゃったような」
「水質と微生物の研究です」
「へえ」

つまんなそう。

「僕には、結構楽しい仕事ですよ。人間と関わらなくていいから」

あ、また読心術。
“人間”なんて自分が妖怪みたいな言い方...。
思わずクスリ、と笑う。

「まあ、人間が一番クセありますよね。生き物の中で。ビジネスなんて、お互いの腹の探り合いですものね」
「僕とのデートも、腹の探りあいとか思っていませんか?」

眼鏡を中指で押し上げて、チラリ、と坂口さんはこっちを見る。





もしかして、鎌をかけられている?






ええい、本音を言っちゃえ!
「今までネットで会った人たちが、結構クセのある人ばっかりだったんで、正直あまり期待していません」
「そうでしたか」
坂口さんは、キュッと口角を結ぶとそう呟く。


ああ、もう出会い求めて必死になってるモテないかわいそうな淫乱女とか思われちゃったかな。
でも、もうどうにでもなれ!だ。


「例えばどんな?」
至極真面目に、坂口さんは訊ねる。
「えーと、ポルノのスカウトマンでしょ、彼女持ちの男でしょ、やりたいだけの種馬マンでしょ、プロフィールの写真と全然ちがうとっつあん坊やでしょ、で、この間最後にデートした男は真性のマゾでした」
「ぷっ」
運転中の坂口さんが突然吹き出す。
「ははは、面白いですね。小俣さんは。良い経験していらっしゃるようだ」
「よく、面白いとは言われます...。ただ、これらが良い経験かどうかは分かりませんけど...」
「良い経験ですよ。だってでなければ人間の直感や感性は磨かれませんからね。それに、ポルノのスカウトマンやとっつあん坊ややマゾの男達と会うという経験が無ければ、僕との出会いも無いですからね
あ。
思わず顔を上げる。

この人、受け入れてくれてる?

「ベイブリッジが見えてきました」
顎をしゃくって前を示す。
「僕は、久々のデートなんですよ。最後まで付き合っていただけたら光栄です」
坂口さんはそう言って、優しげに微笑んだ。




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フホウ侵入 Ⅱ    05.20.2007
ベイブリッジに行って、中華街でご飯を食べて、みなとみらいでショッピングがてらブラブラする。

と、いうよりむしろ「これ食べたい!」「ここ行きたい!」と我侭放題のあたしに、坂口さんが辛抱強くつきあってくれていた。

これよこれ、あたしの求めていたものは!


駆け引きもクソもない、普通のデート。


送っていくと言って聞かない坂口さんは、あたしの世田谷のアパートまでわざわざ横浜から運転してくれた。
「今日は、色々と連れて行っていただいて、本当に楽しかったです!」
なんて言葉が心の底から素直正直に言えたのなんて、久しぶり!
「僕も、色々な所に行けて楽しかったですよ」
「色々な所に引きずりまわされて、でしょう?」
「そんな事はないですよ」
くくっ、と坂口さんは苦笑いを漏らす。

ああ、やっぱ良い男!

「それなら、引きずり回されたついでにいいですか?」
坂口さんは顎に手をかけて、ちょっと言いずらそうに視線を落とす。
「はい?」

「また近いうちに、どこかへ遊びに行きませんか?」
行きますとも!宇宙の果てまでも貴方とならどこまでも!!!
なんて言葉を飲み込んで、
「もちろんです」
と極上の笑みで返した。


坂口さんとお別れして、ルンルン気分でアパートの階段を駆け上っていくと、自分の家のドアの前にでっかい物体が体育座りをして蹲っていた。
「タ、タロ?」
驚いた。また来た。
タロは元気なく面を上げて、捨て犬のような目でうったえる。
「ハラ減ったぁ...」
髪型は相変わらずピョンピョン跳ねまくっているし、まだ半渇きの状態だ。
泳いでいたのかな。
Tシャツにジャージズボン、それにサンダルという井出たち。
いつからここで待ってたんだろう?
「ここじゃ何だし...とりあえず、入んな」
あたしは、手で入るように合図する。
「えっ、いいの?」
餌を目の前に出された子犬みたいにパッと目を輝かせたタロは
「おっ邪魔しまーす」
と中に入ってきた。


「泳いでいたの?」
半渇きのタロの髪の毛を指差して、あたしは尋ねる。
「うん。さっきまで。毎日朝夕3時間練習の6時間っ。それか、筋トレのどっちかー」
「疲れない?」
「ちゅかれた~~~~~~~。でも、ミーナ待ってて良かった」
ニカーっと微笑んだ後、「?」みたいな顔つきになり、最後にちょっと不愉快そうに眉根を寄せる。

タロの表情3変化。面白いかも。

「あのさあ、さっきの車ナニ?あの眼鏡の男ダレ?ミーナ今日ナニしてたの?」
「何って、デートに決まってんじゃない。日曜日だよ?」
着ていた上着をハンガーにかけながら答える。
「ふうん」
あれ?もっと奇声発したり、オーバーリアクションを予期していたあたしは、不思議に思ってタロに向き直る。

「わっ」
タロは真後ろにいた。
口を尖らせながらも、“真面目”な顔であたしを直視している。
165cmのあたしは、20cmも背の高いタロを見上げる格好になる。

「あーいうアキバみたいな男、好みなの?」
ワントーン、タロの声が低い。
アキバって......確かに坂口さんは眼鏡をかけているけれど、それだけでアキバ系とは...。
「そうなのっ?」
タロは詰め寄る。
カオが真剣だ。

な、何だこの奇妙なシチュエーションは?!

「タロだって、デートくらいはするでしょ?彼女だって、居るんじゃないの?」
あたしはタロの横を通り抜け、キッチンに向かう。
「い、いないよ!」
「そう?でも色々と地元の噂は聞くわよ」
「そ、そりゃあ1回か2回は、あ...あるよ。でえとくらいは!」
タロも一緒にキッチンについてくる。
「坂口さんとは、今日初めてデートしただけで、ホントにそれだけ。別に好みじゃないし」
何でこの子に弁明してるんだろ?
全然関係ないじゃない。
「タロには関係の無い事だから......」

「関係大有りだよ!何年待ってると思ってんのさっ!」

タロが力づくであたしを振り向かせる。


タロが......怒ってる?
こんな表情(カオ)、初めて見る。

いや、競泳の中継をTVで観た時も、確かこんな表情をしていた。

ちょっと下唇を噛んで
顎に力が入っていて
そしてきっと、ゴーグルの下の双眸はこんな風に鋭いんだと思う。

勝負前の、獣の瞳
ハント前の、狼みたいな。


腕に食い込んでいるタロの指に力が入る。
「言っとっけど、12年も待ってんだからね!俺、すんごいシツコイよ。ギブなんて絶対してやんないかんね!!」
そう大声で突然宣言(?!)するなり
ガバッとあたしを抱き寄せた。

うわあ、何だ突然?!

いつかも嗅いだ事のある、塩素と男の体臭の匂い。
それに、タロの熱い体温があたしを取り巻く。

でっかいタロにすっぽり包まれたあたしは、身動きがとれない。

あたしの首筋に頭を埋めているタロは、そのうちクンクンクンとあたしの匂いを嗅ぎだした。

「ちょ、タロ?」
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!男のニオイがするう!!!」
今度はベリッとあたしを引き剥がす。
あんたは野生動物ですか。
犬ですか。

口の横をキュッと結んで腰に手を当て任王立ちのタロはビシッとあたしに人差し指を突きつける。
「ミーナ、俺今決めたっ。もう遠慮なしにするからねっ。覚悟しておいてよ!」
そう言うが早いか、タロはクルリと踵を返してドタドタとアパートから駆け出した。




フホウ侵入 Ⅲ    05.20.2007
 い、今のはいったい何だったんだ?
「遠慮無しにするからねっ」なんて、意味が分からない。
「12年も待っていた」って、あたしの事?


まあいいや。
でもあの子...男のニオイがするって言ってたよね?
坂口さんのニオイがするのかな?
クンクンと着ている服のニオイを嗅いでみる。
「別にしないじゃん」
でも、とりあえずお風呂にでも入っておこう。
時間も時間だし。

数分でお風呂が沸く、湯沸かし機って使えるテクノロジーのグッドな例よね。
取り付けるのにお金が要ったけど、すっごい便利とか思いながら丹念に体を洗い、湯船に浸かる。
「気持ち良い~」

何故か、一日の大半を過ごした坂口さんの事では無く、タロの言動の方が気になっていた。

あんなカオ、あの子でもするんだ...。

あたしの記憶の中のタロは、いつも笑っているか、拗ねてるか、困った顔しかしていない。

陽子が「あの子は負けず嫌い」といっていたのを思い出す。
そうだよね。そうじゃなきゃ、弱肉強食のスポーツの世界では生き残れない。
ましてや、オリンピックなんて世界各国の優秀なアスリートの、その中の負けず嫌い1番さんが集まって戦うんだから。

しかし、さっきのアレは果たして“愛の告白”か何かだったのかな?
イヤ。
「好き」や「愛してる」の一言も無かった。

「...結局何だったんだ?」
タロの思考回路がイマイチ......いや、全く持って全然さっぱりわからない
タロの事だ。きっと大した意味は無いのだろう。
ああもう。
ウダウダと考えるのを止めて、浴槽から腰をあげる。

「タオル、無いじゃん」
今朝、バスタオルを洗濯籠の中に投げ入れた事を思い出したあたしは、濡れた体のまま、真っ裸で隣の玄関横にあるクロゼットまでタオルを取りに行く。
積み重なっているタオルの山から一枚掴む。



と。













「ミーナぁ!!俺やっとケータイ手に入れ・・・・・・・っ」


ガチャ、と勝手に玄関のドアが開いて、『SOFT〇ANK』と書かれている紙袋を手に持ったタロが姿を現した。

「あ......」






そのタロの視線が、あたしの顔から胸のあたりをさまよい、
更にはその下の......



















ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

ボゴッ。


あたしは、瞬時にタオルを引き寄せて胸を隠すと(下半身はすっぽんぽん状態)、タロを思いっきり殴り飛ばしバスルームに駆け戻った。




信じらんない信じらんない信じらんなーーーーーーいっ!!
何勝手に人の家不法侵入してんの、あの子はあ!!


タオルをきつく抱いたまま、バスルームのドアの前でうずくまる。
タロに、見られた。

す、す、素っ裸を。

あのね、過去にベッドインした男達にはみーんな見られてるし、別に減るもんじゃないのよ。いい男とだったらすっぽんぽんもありかなー、とか思うわよ。床の上限定でね。

だけど、タロは、タロは......
何かイヤだ。


「あ、あのう~~~......ミ、ミーナぁ~~?」
バスルームのドア越しに、タロが弱々しく声をかけてくる。
「ごめんなさあい......俺、ドアの鍵開いてたからぁ......あのぅ...」

タロの表情が見なくてもわかる。
捨てられた子犬のような、しゅんとした顔。

あたしの見知った、タロのカオ。

「駄目、許さない」
しーーーーーーーーーーーん。

少しく間をあけて、タロはボツボツと話し始める。
「別に、俺、そんな見てないよぉ?さっき、あの後ちょっとケータイ買いに行ってて、ハンコとか無くて大変だったけどぉ、プリペエドとかいうのだったら買えたんで、ミーナに知らせようと思って戻ってきたんだけどぉ......」
「帰って。今日は帰りなさい、タロ
「えええ~~~~っ!だって、まだ、夕飯~~~~~~」
まだ食べて帰る気だったのか、この子は!
「夕飯はナシ!お互い大人なんだし......あ、あんたはまだ未成年だけど、でも、あたしもあたしの生活があるから。もう勝手に家の前で待ち伏せとか、止めて迷惑この上ない

しばしの沈黙の後、
はあ~、と大きな溜息が聞こえた。
ガサゴソと紙の擦れる音が聞こえ、やがて
「分かったよぅ」
と寂しそうに告げる。
数秒後、玄関のドアがパタンと閉まる音が聞こえると、あたしはそっと浴室を出た。



ドアの前には、タロの新しい携帯の番号らしきものが書かれた紙の切れ端が落ちていた。





他人のヒミツ    05.20.2007
 家で翻訳用のレポートのメモを取っていると、陽子から久々に電話が来た。

「最近どうなってんの?男達とまだデートしたりちちくりあったりしてるの?」
「ちちくりあうって何さ」
「色々イチャイチャやってるか、って事よ」
休憩、とばかりにあたしはペンを置く。
「今は坂口さんとしか連絡とって無いよ。彼とは今週末に会う予定だけど」
「坂口さんって?」
「M男の後、今デートしている研究者」
「研究者?何の?」
「ミジンコとか微生物」
「へえ」
陽子の反応があまりにもあたしのものと似ていて、思わず忍び笑いがもれる。
「つまんなそうでしょ。でも、会ったら結構良い人だった。顔も、眼鏡なければ美形。カッコイイよ絶対」
「それでその人とはデートだけ?」
「それも、まだ1回。たまにお互いオンラインだったらチャットするけど、ホントにそれだけ」
「ふうん。あたしさ、最近ちょっと思い始めたんだけど...」
陽子はもったいぶったようにそこでとめる。
「何?気になるじゃん」
聞き返しながら、あたしはデスクの上に開いていた辞書や書類を片付け始める。
「水名子“わざと”深い関係避けてんのかなーって。だから男コロコロかえてんのかなー、って」

いや、単にまともな男が居なかっただけで、別にコロコロとは...。

「そんな事ないよ。良い人が見つかったら、もう出会いを求めたりチャットしたりなんてしないよ。あたし、尽くしちゃうタイプだし」
「そうだったわ。あんたがシングルになってもう何ヶ月も経つし、忘れてたけどあんた一途だったよね、惚れた男には。惚れた男以外にも、尽くすというより老若男女いろんな人におせっかいやいてたけどね。昔から」
陽子は「それならいいんだ」と電話口から安堵の溜息を漏らした。

「そういえば、タロがうちに来たよ」
「ええ?あの太郎君?W大に行ってるんだよね?」
「そうそう。うちから20分くらいなんだけど、最初は「ハラ減った~」ってやって来て、2回目は......」

そこで、あの時の場面が蘇る。
嗚呼、今でも不快。

「2回目は?」
「ううん、何でもない。なんか携帯買ったとか言って来た。とにかく、全然変わってなくて、アホのままっ」
「案外、水名子の事狙ってたりして」
う。鋭い。
「さあ?あの子思考回路がミジンコの宇宙人だから解らない」
「支離滅裂だよ。思考回路がミジンコの宇宙人て何?単細胞は思考回路なんて無いから単細胞なんでしょ?」
「何でもない!あーあ。あたしにも、ヒカルさんみたいな男の人現れないかなー」
ゴロリ、とベッドの上に寝転がる。

タロの意味不明な行動はもう忘れよう。うん。
別に電話番号貰ったからって、連絡する必要はないし、タロも人の体タダ見して悪いと思えばとっとと謝りに来るなり何なり行動を起こしているはずだ。


「きっと水名子だったらついて行けないと思うよ、ヒカルの趣味趣向に。あいつ、性格悪いしひねくれてるし、自分が一番可愛くて、自分に一番注目が集まってないと生きていけない哀れな男だからね」
陽子の声でタロの事が頭から吹っ飛ぶ。
ヒカルさん、とは陽子と同棲している彼女のフィアンセだ。
「そう?」

巷で言う“アイドルグループ”出身のヒカルさんは、芸能界という雅で煌びやかな世界に人生の半分以上身を置いているだけあって、大変なナルシストさんだ。

「ちなみに、“歌手俳優芸人司会者”なんていう超不安定な職業だし、明日はもうあの世界から抹殺されて、過去の栄光を頼りに地方のキャバレー(今時)で営業とかだってありうるからね。怖いよ」
「でも超売れっ子じゃん。愛されてるし、羨ましいよ」
「どうかね。一緒に出かけるにもコソコソしなきゃいけないし、神経磨り減るわ。禿げ上がっちゃう。あ、噂をすれば何とやら。帰ってきましたよナルシストが」
「また電話するね」と言って陽子は電話を切った。


あたしはゴロリとベッドの上の体を反転させてうつ伏せになると、坂口さんの携帯にメールを打った。
『日曜日にお会いできるのが楽しみです』
数分後、返事が来た。


『今から会えますか?』
予想外の返事だった。




他人のヒミツ Ⅱ    05.20.2007
 本当に、迎えに来た。

『今から会えますか』
と坂口さんからメールが来て1時間後、彼の黒い愛車はあたしのアパートの前に、本当に来て停まった。

今日はもう寝るだけだと思っていたので、D〇ORと書かれたTシャツにジーンズに軽くメイクを直しただけの、気合入れまくりのJJファッションからは程遠い格好になってしまったが、坂口さんは別にあたしのルックスには興味が皆無のご様子で、
「こんな夜分突然で申し訳ない」
とおかしな事に困惑顔であたしを迎えた。
「いいえ、別にあたしは暇でしたし」
頭を掻きながら答える。
ホントは結構やる事あるんだけどな。

「ええと、横浜の方へ向かっても僕は全然構わないのですが…時間が時間ですし、ここら辺で何処かゆっくりと話せる場所をご存知ですか?」
「お腹が減っていらっしゃるんですか、坂口さん?」
「いえ。水名子さんは?」
「もう今夜は冷蔵庫の有り合わせで済ませてしまったんですよねー。あ、じゃあ、居酒屋かバーでも宜しいですか?近所に数件あるんですけど」
頭の中で駅付近のバーや居酒屋データを収集する。
「では、僕はここら辺でパーキングを探してとめてきますので、ここで待ってて頂けますか?」
と、言い残して坂口さんは再度車に乗り込んだ。


まあ、強引な男も玉には良いと思うけど…。
今夜の坂口さんはそれにしても、何て言うか…前回と違う。

人のこと誘っておいて、会ったら別に目を合わせようともしないし、心なし落ち着きが無い…ような。
気のせいかな?

「あの、どうかなされたんですか、こんな時間に?いえ、誘っていただいたのは嬉しかったんですけど」
駅から徒歩8分、自宅から3分以内にある、2時まで開いているメキシカンダイニングバーに着いて飲み物をオーダーすると、あたしは坂口さんに向き直った。

今日は白いシャツに青紺ネクタイ+スラックス、といういたって『仕事帰り風』ファッションの坂口さんは、疲れ気味なのか、前回お会いした時より眼鏡の奥の瞳が少し窪んで頬がこけているように見えた。

マルガリータをがぶ飲みし続けているあたしとは正反対で、頼んだコローナビールには一口も口をつけず、押し黙っている。

と、いうより人を誘っておきながら、坂口さんは上の空だ。
現にあたしの言葉に反応してない。

変。絶対変!

「坂口さん、お疲れ気味のようですね。今日は…お仕事ですよね、もちろん。平日ですものね。今日も微生物の生態を調べていらっしゃったんですか?あたしも 今日は出勤日で、あ、たまに在宅ワークも許されてるんですけどね、それで、会社でミーティングがあって、もう期限が迫ってる原稿が幾つかあるっていうにも かかわらずIT系コンフェレンス用の書類の翻訳頼まれちゃって、家に帰ってまで残業ですよ。でも坂口さんが誘ってくださって、外に出る口実が出来てよかっ た。もう辞書との格闘で頭がおかしくなりそうだったんですよねー」
あたしは独りでペラペラ喋り捲る。


しーーーーん。

やっぱり、オカシイ。
坂口さんの顔を覗き込む。
眉間に皺を寄せて何事か思案していたらしき坂口さんは、あたしが注目しているのに気付くと
「あっ」
と我に返った。

「あの、余計なお世話かもしれませんけど、何かあったんですか?」
ヲイヲイ、もう帰ろうぜ。
相手がこんなじゃ酒があっても酔えませんよ、水名子さん。

端整な顔を一瞬、気をつけていなければ分からない程度に歪ませたかと思うと、坂口さんは大きく息をつく。
「いや、その…身内が…妹が、危篤状態なんです」
「妹さん?」
「うちは母子家庭だったんですが、数年前に母が死んでからずっと僕が妹の面倒をみているんです」

前回はじめて会った坂口さんとは、初回のデートという事もあり家族の事や私生活の事など入りこんだ話はお互い避けていたので、あたしはかなりディープでヘヴィーそうな坂口さんの生活環境に少し驚いた。

確かに、苦労してそう。
坂口さん、言動や仕草1つとっても神経質そうで人間に対する観察眼鋭そうな雰囲気だし。

「めぐ...妹はずっと体が弱くて闘病生活を送っていたんだが…もう…駄目らしい。あと1ヶ月も持たないだろうと今日医者に宣告されました。」
眼鏡を押し上げながら到って無表情に坂口さんは答える。

「……」
こういう時って、返す言葉が難しい。
「今も、病院にいらっしゃるんですか?」
「色々な管につながれて、かろうじて命を繋ぎ止めている状態です」
坂口さんは淡々と、感情を押し殺した声で言葉を吐く。
「一度は治ったと思ったんだが…」
視線が宙をさまよって、あたしのそれと合う。
「申し訳ない。こんな話を聞かせる為だけに水名子さんの事を呼んだわけじゃないんですよ」
心なし、寂しそうに坂口さんは苦笑する。

駄目だあたしこういうの…。

「妹さんは……」
「15の時から白血病と闘って今に到っています。もう10年になるかな.。良くなったり、悪くなったりの繰り返しで」
あたしが質問を終える前に、分かっていますとばかりに答える。

また、読心術。



「ああ、飲み物が来てる」

この人、重症だ。

飲み物なんてとっくのとうに届いてるのに。
あたしなんてもうマルガリータ飲み干しちゃったのに。

ビールをグラスに注ぐと坂口さんは一気にそれを仰ぐ。


あたしは気付くと坂口さんの腕を掴んでいた。





他人のヒミツ Ⅲ    05.20.2007
あたしは坂口さんの腕を掴んだ。

坂口さんは弾かれたように面を上げる。
「動揺しているのを悟られていますね、完全に。滑稽だな。ははっ」
力なく、おどけたように呟く。


震えている………?


んな事無いか。
「坂口さん、うちに来ます?ビールもいいけどこういう日は、やっぱ日本酒ですよね。実家から送られてきた美味しいお酒あるんですよ。うちの地元、地酒で有名なんで。ちょっくら飲み比べしましょうや」

この言い方だったら、変に誘ってるとか勘違いされないよね。
あたしはジャケットを掴み、
「あ、僕は…」
と断りそうな勢いの坂口さんの腕を思いっきり引っ張ってレジへ向かった。


狭いアパートに坂口さんを招き入れたあたしは、酒の肴に、お酢と鰹とろろ昆布で作った即席昆布巻きと夕飯の残りのレタス豚チャーハン、あたしの好物のチーズ鱈を出した。
相変わらず眼鏡の奥の目はうまく感情を押し殺しているようで、あたしの馬鹿話に時たま相槌を打つ以外、坂口さんはいたって静かだ。

「それでね、お酒を注がれる人は“おっとっとっと~”って言って、注ぐ人は“まあまあまあまあ~”って言いながら飲まなきゃいけないんですよ。そのビデオによると。ほら、坂口さん、まあまあまあまあ~~~~」

何杯目だろ。
元来あまりお酒に強い方じゃないんだけど、気付いたら底なしに飲んでいるような気がした。

坂口さんも坂口さんで、あたしに無理やり飲まされてる事も手伝って、酔いがまわるに連れて少しずつ頑なだった何かが緩み始めているのが感じ取れた。

「…まったく、無茶苦茶ですね水名子さんは。…まさか自分がここまで飲まされるなんて、思ってもみなかった…」
1升瓶が空になった所で、坂口さんはポツリポツリとだが言葉を発してくれはじめた。
「よっく言われますよー。言動と行動が伴ってないとかーっ、三国志の武将みたいに豪快だとかーっ、強引だとかおせっかいだとかーっ、ヒック」

おせっかい、だよね。うん。
それはこーんな酔ってても分かってるんだ。

でも、坂口さん付き合ってくれてるし。
嫌だったらとっくにこんな酔っ払い女にドン引きして、オサラバしてる筈だし。

「大丈夫ですか?…僕は底なしなんでアレですけど、水名子さんの方が…」

あはは。あたし景気つけようとしてる相手に心配されてる。

「妹さんってえ、どういう娘なんですかあ?」
酔ってないと聞けないよねこんな事。
でも酔ってるから、聞いちゃえ。
「え、恵ですか?」
坂口さんがピクリ、と僅かながら反応する。
弾みでお猪口の酒が少し零れる。
めぐさんて言うんだあー。どんな子なんですか?」
「恵は……」
一瞬思案したように間を空けて答える。
「良い子ですよ。裏表の無い、明るい子でした」

“でした”
過去形だ。

「坂口さん似?やっぱキレイな人なんでしょうねぇー。お幾つですか?」
「今年で25歳…に今年なる予定だったんですが...」

“だった”
また過去形。

まだ生きているんじゃないの、妹さん?
そう喉まで声が出そうになって、とっさに抑える。
「…へえ、あたしより2歳も若い。いいな、若いって」

よくねえよ!
白血病で死にかかった状態なのに、妹さん。
言っちゃってから頭の中で自分に突っ込む。
ああ、馬鹿だあたしは!

「いや、あの、お肌の曲がり角ですね…っ」
病人の肌と比べてるしっ。
嗚呼、墓穴掘ってる!!



沈黙。



「お手洗いをお借りても宜しいですか?」
気まずそうに坂口さんが訊ねる。
やっぱ地雷踏んじゃったかな。
もうこの話はおしまいッ。

「えっとー、玄関から二つ目のドアでーす」
あたしは適当に玄関の方を指差す。
坂口さんの顔が見れない。
「わかりました」と応答して、坂口さんはソファから立った。


「?」
坂口さんが座っていたソファの上に、小さく折りたたまれた紙がポツン、と置かれていた。

座っている間に彼のポケットから落ちたものなのかな。

坂口さんのものにしては、やけに可愛らしい四葉のクローバー模様のパリパリに古くなっているその便箋らしきものに、ふと手を伸ばして取る。

「なーんだろ?」
と、何気なく開けてみる。


『世界で一番大好きなお兄ちゃんへ

こんな風に手紙で書くのは変かな、と思ったけれど、お母さんの手前、やっぱりメグの気持ちを理解してもらうには手紙が一番かなと思って筆を取りました。
京都の大学に居るお兄ちゃんが夏休みに戻ってきてくれて、本当に、本当に嬉しかったし楽しかったです。
やっと夏の間だけ退院出来たのにお母さんは仕事で家に居ないし、友達は皆バイトで長くつまらない夏休みになりそうだったけど、毎日お兄ちゃんに会えた事がメグにとっては最高のお土産でした。
そして、メグの初めてをもらってくれて、ありがとう。
お兄ちゃんが京都に帰った後、あんな事頼んで、ワガママ言って、もうメグを軽蔑しちゃったかもしれないと思うと夜も眠れませんでした。
でも、メグはあの夜の事を決して忘れません。メグはずーっとずーっと、お兄ちゃんの事が好きでした。メグは何があってもお兄ちゃん一筋です。

お兄ちゃんがメグに買ってくれた指輪は、今もこの指にしっかりとはまっています。そして、いっぱいいっぱいのありがとうを、お兄ちゃんに会って伝えたいです。
だから、お兄ちゃんも浮気しないで、メグの事待っていてください。絶対、絶対治療して元気になると誓います。

お兄ちゃんからの電話を楽しみに待ってます☆

☆メグ☆』



パサリ、と何事も無かったかのように手にしていた手紙を元の大きさに折りたたむ。



あたし、見てはいけない物を見てしまった...よね、今?


どどどどどどどどどーちまちょ?!



一気に酔いが醒める。


さっきの場所へさりげなく戻そう。
うん。それがいい。

と、思って手を伸ばそうとすると、
ガチャリ。
と浴室(トイレ)のドアが開く音がした。
咄嗟に、あの手紙をジーンズの尻ポケットの中に隠す。

「トイレがなかなか流れなくて...大変でした」
坂口さんが戻ってきてソファに再び腰をかける。

「あ...あ、あれ、レバー引く...コ、コツがあるんですよ」
ヤバイッ。動揺してる。
まともに坂口さんの顔が見れなくなってるしっ。

“メグの初めてをもらってくれて、ありがとう”

妹さんの文字が頭から離れなひ~~~!


だって、こんな端整な顔のお兄さんが......
産業世界の文化的タブーを犯してるのよ?
こんなすました顔して...!

「本当に、大丈夫ですか?顔色が宜しくないようですが...」
「お、お、お酒のせいで多分...。お水でも取ってきますね。さ、坂口さんは?」
「僕は結構です」
声に棘が含まれているように感じたけど、あたしはヨロヨロと立ち上がって台所に向かった。








他人のヒミツ Ⅳ    05.20.2007
 ぷはーっ、と水を飲んで息を吐く。

やっぱダークでへヴィだわ。坂口さんの過去。
いや、まだ現在進行形なのか?
いずれにせよ、だから妹さんの危篤の知らせにあんなに動揺していたんだ...。

チャットで何回か話して、1回しかデートもしていないのに。
再度水を飲んで、息をつく。

つくづくあたしは男運が悪いらしい。
もう諦めの境地に入りかけてるけどね。

「よしっ」
あたしは小さく気合を入れて、リビングに戻った。



ソファの上で、坂口さんはまだちびちびとお猪口の中のお酒を飲んでいた。
顔は、無表情。
「今日はこんなに飲んじゃって、運転して帰れないですね。終電...何時だろ?」
さりげなーく、帰宅を促す。
坂口さんはトン、と小さな器をテーブルに置く。

「水名子さん。あなたの最後の相手はマゾだった、と仰ってましたね?」
「え?ええ。後味最悪のM男でした...けど?」
「僕はデートも、最後に女を抱いたのも1年以上前なんです」
「ええ...」
何が言いたいんだこのお兄さんは?
ちょっと身構える。

「そんなに身構えられると、こっちは何も出来ませんね」
言いながら、坂口さんはソファの反対側のあたしの方へ、距離を縮める。

ちょっちょっちょ待って!

「僕は34にもなって、恥かしい事にあまり女性経験が無いもので」
眼鏡を外し、髪を掻きあげる。

「どうしたんですか、坂口さん?悪酔いしてますねー?は、はははっ」
笑えないっつーの!

押しのけようとしたあたしの腕が、坂口さんに捕らえられる。

「手紙を、読まれましたね?」

眼鏡のない坂口さんの目は、怒っているというより悲しそうだった。
どす黒い何かが渦巻いたような、寂しそうな瞳。

「え?て...手紙?何の事ですか?」
しらばっくれてみる。
「嘘がお下手ですね。さっき台所へ行かれたとき、ポケットから落とされましたよ」

どっひゃあああああ~~~~~~!
慌ててて、ちゃんとポケットに入れてなかったんだ。
じ、自爆!!

「これはね、メグが...妹が17の時初めて僕に書いた手紙で...」
坂口さんは掴んだ手を捻り上げる。
イタイイタイ!
「内容はご覧になられた通りですよ。僕らはそういう関係でした。......妹が再度入院する1年前までは。...今日、医者からの宣告を聞いて...大事にしまってあったコレを咄嗟にお守り代わりに掴んでいたんです。......奇跡が起きるんじゃないかと」

ヤダ怖い。
神様仏様、タロでも誰でもいいから助けて!!
「ちょっと、止めてください!大声出しま...んぐっ」
男の力で押さえつけられ、唇を塞がれる。

酒臭い息。

大胆に舌が侵入して、歯の裏やあたしの舌に絡んでくる。
意思とは裏腹に、彼のキスに否応なく応じてしまう。
息継ぎをする時間も無く。
唇を離すと、糸が引く。
どちらの唾液なのか解らないほど、激しい口付け。

あたしの腕を捕らえている方とは反対の腕で、D〇ORのピンクのTシャツが押し上げられる。
「こんな時間に不用意に男を家にいれたらいけませんよ」
「坂口さんっ...んんっ」
あたしの首筋に激しくキスの雨を降らしながら囁く。
鎖骨のあたりまでTシャツが押し上げられると、荒っぽくブラが剥ぎ取られた。
部屋はそんなに寒くないのに、冷気を感じて胸の蕾が固く尖る。
さっきまであたしの口を塞いでいた坂口さんの唇は、あたしの露出した胸の頂を捉えた。
「ああっ」
こんなシチュエーションなのに、思わず声が出てしまった。
チュッと吸いながら、もう片方の手はあたしのジーパンのボタンを外しにかかっている。

ジーパンを脱がすと、坂口さんは性急だった。
あたしの肩足を押し上げ、すばやく花園の中に指をつるっと滑り込ます。

まだあたしの準備ができていないのは明らかだった。

だけど坂口さんは自分の服を脱ぐなんて時間も惜しむように、手早く片手でベルトを外すと、穿いているスラックスの中から赤く怒張している自身を取り出した。

色白でキレイな坂口さんの顔とはまるで正反対の、意思を持った生き物のようなグロテスクな自身をを掴んだまま、あたしの膝を割る。

そのまま、グイッと無理やり侵入してきた。

いたっ!いたたたたたっ!!んんぐっ!
坂口さんはあたしが苦痛の悲鳴を上げるのも許してくれなかった。
再度あたしの唇を塞ぎ、荒々しく腰を突き上げながら胸を揉みしだく。

何度か出し入れしていると。

坂口さんの先端からこぼれ出ている露なのか、あたしが彼の大きさに徐々に慣れて濡れてきたのか、動く度にだんだんクチュクチュとエッチな音が大きくなり、彼の一突き一突きがそれなりの快感に変わっていく。

「ん...あっ...っ」
坂口さんの口から喘ぎが漏れる。

肩を上下させて息を吐きながら、パンッパンッと激しくあたしに打ち込んでいく。
「はあっ......あっ......はあっ......」



男の人の喘ぎ声って...結構色っぽいなあ......。
なんて天井を見ながらぼんやりと考える。

やけに冷静な自分がいた。




「はあっはあっ......はあっ...あっ...あっ」
時間が経過するにつれ、坂口さんの苦しそうな息遣いが、徐々に切羽詰ったものに変わっていく。



「水名子...っさんっ......ああっ」





ちょーっと待った!
中出しだけはカンベンしてよ!!!!
クライマックスを迎えそうな坂口さんの表情(カオ)を見て、あたしの理性が悲鳴を上げる。




その心の絶叫が聞こえたのか、坂口さんはスッとあたしの中に埋めていたモノを取り出した。
あたしの愛液やら坂口さん自身の汁やらで、引き抜かれた彼のソレはグチョグチョに濡れて光っている。

「......はあぁぁぁっ!」
恍惚の絶頂に達した瞬間。

ブルッ、と坂口さんの体が震えたかと思うと、彼の薄ピンク色の割れた先端から白濁した熱い情熱が、数度弧を描いてあたしの胸に飛び散った。


全部を出し切ると、坂口さんはあたしの上に崩れ落ちた。
そして、狂ったようにあたしをかき抱く。




坂口さんは、大きな声で子供のように泣いていた。





デッドヒート    05.20.2007
 5月に入って。
毛虫が落ちそうな桜通りはなるべく避けて歩こうと心がける新緑の月。

坂口さんとは前以上に親しい関係が築けていた。

親しい、と言ってもラブラブ☆とかそんなナマっちょろい関係ではなく、友人のような、同士のような、ぶっちゃけ戦友のような不思議な関係である。

ここ数週間。

あの不法侵入事件以来、タロは姿を見せない。
あの馬鹿は何してるんだろうか。
多分、水泳か学校絡みで忙しいんだとは思うけれど…。

それに引き換え坂口さんは

「マメだわ…」

手短ながら、1日1回は必ずメールを送ってくれるようになったし、電話でも話をするようにもなった。

だけどあの夜以来、体の関係はお互い控えていた。
その話題すら、故意に触れないようにしていた。




あの夜。
嵐のような行為(なんてロマンチックな表現からは程遠いレ〇プまがいの行為)の後、坂口さんは激しい後悔に襲われたらしく、何度も何度もあたしに頭を下げた。

そして、まるで神父さんに懺悔するかの如く、洗いざらい自分の過去を、罪を、不器用そうに打ち明けてくれた。

10年以上続いた妹さんとの関係。
介護と将来に不安を覚え、半ば現実逃避で始めた出会い系のチャット。
罪悪感に苛まれながらあたしとはじめて会った日の事。
..あの日あたしに付き合って、少しだけ現実を忘れた、心が軽くなったと打ち明けてくれた。

「長い間覚悟をしていたから大丈夫ですよ」と空笑いで答えながらも、坂口さんは苦しそうだった。

...今では変わり果てた妹さんの姿。
その妹さんを愛していながらも、1ヵ月以内には必ず来るだろう別れ。

泥酔して激しい行為に及んで、心身ともに疲れ切っていたにもかかわらず、あたしたちはそのままお互いについて話しながら夜を明かした。

もちろん、あたしは自分のベッドで、坂口さんはソファの上で。

坂口さんは行為のお詫びとばかりに一晩中、あたしの馬鹿話やネットデートでの武勇伝(?)に根気良く付き合ってくれた。
翌朝は、会社にまで送ってくれた。


「映画を一緒に観ませんか?」
それから数日後。
電話口で坂口さんから映画に誘われたので、今回は一緒に六〇木のバー〇ンシネマへ映画を観にいく事にした。
インディペンデンス系のアメリカ映画。
ハリウッドの大衆娯楽じゃない所が、坂口さんらしい。

「5月半ばまで会社から有給をもらいまして毎日妹に付き添っているのですが、たまに病院と自宅以外の空気もすいたくなるんです」
やつれてはいるものの、前回の荒れようを知っているあたしは、意外と元気そうな坂口さんに安堵する。
「妹さんのご様子は?」
「恵は頑張り屋なので、まだ頑張っていますよ」
余命1ヶ月を宣言された妹さんは、相変わらずの昏睡状態だそうだ。
詳しい状況をあたしに知らせたくないのか、それ以上は教えてくれない。

あたしは、「あたしとなんか時間をつぶさないで、一分一秒でも妹さんの傍に居てあげた方が」と言いそうになり、やっぱりその言葉を飲み込んだ。




映画を見終えたあたし達は、映画館の傍のカフェの窓際の席で、歩道を行きかう人々を観察しながらお茶を飲み、映画について語り合った。

「あのエンディングは辛かったですねー。あ、この紅茶美味しい!」
紅茶ケーキセットを頼んだあたしは、ミルクティーの美味しさに感動する。
「僕は妥当な終わり方だと思いましたよ。主人公は彼を裏切ったんだ」
コーヒーを頼んだ坂口さんはブラックのまま褐色の液体を啜る。
「あの、水名子さん?」
「はい?」
「気にはなっていたんですが、貴方の話に良く出てくる『タロ』というのは、この間横浜から送ったとき、水名子さんのアパートの前に座っていた少年ですか?」
コトン、とカップを置き、坂口さんは顔を上げる。

坂口さん、あたしがタロを家に入れたの見てたのね...。

「ええ。あの子がタロです。実家の隣の家の子で、弟みたいなモンですねー。今はW大に通ってるんですけど……坂口さん、去年の夏、水泳でメダル取った山田太郎って名前ご存知ですか?」
「山田太郎?そんな...覚えやすい名前の選手居たかな?」
「大森製薬のCMで“リフレーッシュ”とか言ってる男の子」
「ああ、アレ」
アレ扱いか。はは。
「あの子ですよ」
「ふうん...そうですか」

ミステリアスに微笑むと、坂口さんはチラリ、と腕時計を見る。
「僕は少ししたら病院の方へ戻ろうと思います。水名子さんはどうしますか?お送りしましょうか?」
「え、良いんですか?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて...」
紅茶を飲み干して、席から腰を上げようとした瞬間。



『あれえ~~~~~~~っ、ミーナだあ!!!』

バンッ、と窓の外に見知った顔が現れる。

そいつの顔は、窓ガラスにペッタリ張り付いていて、ブタみたいな鼻とタコみたいな口になっている。

噂をすればなんとやら。
タロがガラスに張り付いていた。




デッドヒート Ⅱ    05.20.2007
 友達と買い物でもしていたのか、背の低いタロの友人らしき少年は、
「やめろよ、恥かしい~~~!」
とガラスウィンドウにべったり貼りついているタロを引き剥がす。

「今のアレ、例の?」
坂口さんが怪訝そうに眉を顰め、親指で外を指す。
「山田太郎です。スミマセン、騒々しくて」

隣の友人に二言三言何か話して、タロは小走りにカフェの店内に入ってきた。

今日のタロは、ジャージにジーンズという、いたって普通の格好だ。
野球帽をジーパンの後ろポケットに突っ込んでいる。

「ミーナ、ゴメン、俺謝りたかったんだずーーーーっと。この間の......ムゴッ

何を言い出そうとしてるの、この子はあ!
ましてや坂口さんの前で
『ミーナの裸みちゃってゴメンねえーっ』
なんて口を滑らせかねない!

手で急いでタロの口を塞ぐと、坂口さんに向き直る。
「坂口さん、これが山田太郎です。タロ、この方が......」
「あーーーー、この間のアキバだあ!まだこんな根暗そうな奴と会ってたのかー!」
タロは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、坂口さんをニラむ。

「タロ、知らない人に向かって失礼でしょ!スミマセン、坂口さん。この子、口の利き方知らないんです。アホなんですっ」

ああ、なんであたしがフォローしてんの?

「行こうか、水名子さん」
坂口さんはあきれたように首を横に振り、あたしの腕を取る。

バゴッ

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"~~~~~~~ミーナに触ってんなゴラア!!!」

タロはそう叫ぶなり、坂口さんに頭突きをお見舞いした。
勢いで、坂口さんの眼鏡が吹っ飛ぶ。

坂口さんはおでこを抑えてフラフラとテーブルに寄りかかった。

「ミーナはなあ、10年以上も前から俺のモンなんだから、俺の許可無しで触るんじゃねえよっ!!!ぶっ殺スぞおっさん


ひええええええぇぇぇ~~~~目がスワッてる。コメカミの血管浮き出てるぅ~。


「行くよっ、ミーナ!」
タロがあたしの手を取った。

が、あたしはその手を振り切る。

「ちょ、ちょっと待って!」
そして、タロに向き直る。

「何様なのあんた?ちょっと夕飯ご馳走してやったからって、いい気になるな。調子こいて彼氏面?いい加減にしなさい。暴力なんて子供のする事でしょ?そして、坂口さんに謝りなさい」

タロは驚いたように目を見開いて、あたしが振り切った手を握り締めて拳を作る。

「人の恋路を邪魔する権利、あんたにはないでしょ?誰と何処で何をしようと、あたしの勝手です。大丈夫ですか坂口さん?行きましょっ」
あたしは、坂口さんの眼鏡を拾い上げて彼に手渡し、お財布から1万円を取り出してテーブルの上に置いた。
フラフラしている坂口さんを引っ張る。

カフェの中の全客の視線は、この乱痴気騒ぎにくぎづけだ。
小さくコソコソ「あれ、水泳の...?」とか「山田太郎じゃないの?」とか言い合っている。

もうさっさと、こんな所オサラバだ。

「じゃあ、どーすればいいんだよっ、俺!」
タロの横を通り過ぎると、タロは穿き捨てるように叫ぶ。

「いっつもいっつも子ども扱いで、ミーナは俺がどんな思いしてたか知らないだろ?俺、ずっとミーナに追いつきたかった。ミーナと同じレベルになりたかった。東京来て、やっとミーナに追いついた、近づいたと思ってたのに、調子こいて何が悪いんだぁ!!!


その言葉を最後に、あたしと坂口さんは店を出た。








「随分と想われていらっしゃるようですね、あの子供に」
車の中で曲がった眼鏡を直すと、坂口さんは早速切り出した。
「スミマセン。ほんっとに...」
それ以上に返す言葉が無くて、あたしはうな垂れる。
「元気がいいですね、最近の若者は」
坂口さんは前髪を上げて、バックミラーでオデコの腫れをチェックする。
タロの頭突きを受けた場所は赤く腫れてる。
「あの...うちで氷かなんか取って行きますか?」
「いえ、その必要はないでしょう。あの子も加減をしていたようだ。そんなに酷くはないようです」
再度身だしなみを整えると、坂口さんはアクセルを踏んだ。


「僕は28で卒業するまで関西の大学院に行っていたので、なかなか横浜の恵と会う時間が無くて...一度恵が病院を抜けて京都に住んでいた僕に会いに来たんです」
前方を見ている坂口さんの眼鏡の奥の目が、うっすらと細まる。

車が走行している間、坂口さんは言葉少なげに、でも淡々と身の上話をしてくれていた。
タロのせいで自分が怪我したのに、あたしが慰められて、どうすんだろ?

「恵さんって、大胆な方なんですね」
フッ、と鼻先で笑って坂口さんは続ける。
「あの子の行動を見ていると、あの時の恵を思い出してしまいましてね。大学の研究室に乗り込んできて、『お兄ちゃんの馬鹿!メグがどんな想いで待っているのか知らないんでしょ?』と泣き叫んで、それはもう大変でした」

周りに人が居たら...あたしだったらかなーり慌てただろうな、そのシチュエーション。
だって兄妹で、恋人同士で、んで周りにはもちろん極秘だろうし...。

「恵は僕に女が出来たと勘違いしていたらしい。そんな事有り得ないのに」
坂口さんは自嘲気味に微笑む。
「さっきのあの子も、自分の縄張りを主張する野良犬みたいな目をしていましたね。もし、僕達が......」
坂口さんは、そこで言い淀み、すうっと息を吸う。

あ、テレパシーを感じた。
この人の感じている事、思っている事が手に取るように解る。

初めて会った時から、坂口さんはあたしの考えが読めているようだった。
いや、もしかしたらあたしが単に解り易いリアクションしてるだけかもしれないけど。

でも、なんでだろ?
あたしも同じだ...。


坂口さんが吐き出そうとしている言葉の続きを、あたしが先に声に出した。

「もしあたしと坂口さんがもっと違う時期に出会えていたら、何かが違っていたかもしれませんね」



坂口さんは
あたしの家に着くまでずっと無表情のまま、前方を見て押し黙ったままだった。




ココロは雨模様    05.20.2007
 今年は梅雨入りが異常に早い、とお天気キャスターのお姉さんが言っていた。

そのせいなのか、5月晴れ……からは程遠い雨雲に覆われている空。
この数日間降り続いた雨は、まるで台風のように激しかった。


タロはどうしているんだろ?
あの日以来この数日間、タロからも坂口さんからも便りが無い。

坂口さんはオンライン上にも姿を現さないし、メールすら来ない。
多分妹さん絡みの何かで忙しいとは思うけれど…。
近々連絡を入れてみよう。うん。


タロは……。



在宅勤務が許されている事をいい事に、大量の書類や資料を仕事場から家に持ち帰ってきたあたしは、PCデスクに座って業務をこなしつつも、なんとなく集中できないでいた。

IT用語用の辞典を取ろうとして、ふと棚の上の、前にタロが置いていったクタクタリボンの2本の金メダルに気付く。

……。

「口実、だよねぇ…」
このメダルをW大のタロに届けてあげようかな。

そう。それだけ。
「時間が経つと、それだけ返しづらくなるってモンよね」

タロが置いていった携帯の番号の事を思い出し、スケジュール帳の中に挟んであった小さな紙切れを取り出す。
手にとって、携帯の利用契約書か何かを破ったらしきその紙片に汚い字で書かれた番号を凝視する。

うーん。
なかなか書いてある番号にダイアルできない。

あたしもしかして、緊張してる?
たかが、タロごときで

「そ、そーんな事ないじゃない。ねえ?」
周りに誰も居ないのに空想の人間に同意を求める。
「よしっ」
ピッポッパ、と番号を打つ。
トゥルルル…トゥルルル…

6回ほど呼び鈴が鳴って、そろそろ切ろうかと思い始めたその時。

「もしもし?」
女の人が電話に出た。


あれ?
これ、タロの携帯じゃ……?

「もしもし?山田のお知り合いの方ですか?」
しゃきしゃきと話す電話の声の主は、あたしの動揺を電話の向こうで察したかのように急いで続ける。
「はい、あの、小俣と申します。えっと…タロ…山田太郎君は?」
「小俣って、小俣水名子さん?ミーナさん?」
「ええ」
どうして電話の女の子、あたしの名前知ってんの?
「あたし、同じ寮に住んでいる佐々木翠です。ずっとミーナさんの連絡先探してたんですよ」
「あたしの、ですか?」
「山田、2日前から風邪で寝込んでいるんです。月曜の朝、びしょ濡れの姿で寮のシャワールームで倒れてるのが見つかって…」

倒れて…?

月曜って、あのカフェでの出来事の翌日だ…。
まさか、ねえ?

「あの、あたし太郎君の忘れ物を届けたいんですけれど…」
「今からですか?」
「今日が無理なら彼が元気になってからでも…」
「いや。今からでも大丈夫ですよ。そちらのご都合が宜しければ。W大のキャンパス内の若葉寮に着いたらあたしに電話ください。寮生が居ないと中に入れないんで。この山田の電話に電話してくださって構いませんから。ええっと…キャンパス内広いんで、寮の場所を言います。紙とペンいいですか?場所は……」
「ちょ、ちょっと待ってください!ええと、ペンペン…」
この娘、テンポ速すぎ!

いや、てか、一体誰?

もしかして、タロの彼女なのかな?
タロの携帯に勝手に出てるし、タロの事良く知ってるみたいだし……。

ちょこっとだけ、複雑な気分。
あれ?なんで複雑なんだ?
良い事じゃないの、ねえ。
タロにもタロの青春があるんだ。うん。

「では、2時間以内にそちらに参りますので…」
大学構内での大まかな寮の位置をメモに書き取ると、あたしは電話を切った。



W大のキャンパス内にある、『若葉寮』なんてベタな名前の、でも比較的新しく建てられたらしい近代的なマンション風の学生寮の前に着くと、あたしは早速その『佐々木翠さん』に電話をした。
「あ、着きましたか?ちょっと待ってて下さい。あたし下に行きますんで」
そういうなり、ブチッと電話を切る。
1分もしないうちに建物の中から
「こっちでーす」
と、手を振った人影が見えた。


あれ?
すっごいデカくないこの娘?



中から現れた『佐々木翠』さんは、健康そうに日焼けして肩幅が広く、筋肉質ながらもすらりとした体型をしていた。
そして髪の毛はベリーショート。
身長はゆうに175はあるんじゃないか?

電話でのイメージと違う。
いやね、電話でのイメージって言っても、ただもうすこーし髪が長くて女の子っぽい感じの子かなーと、勝手に想像してただけで...。

ちょっとモヒカン気味に短めの髪を頭の中央付近で立たせ、白のタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツを穿いている引き締まった肢体の彼女は、胸さえ見なければどう見ても男の子だ。

「へえ、山田が言ってた通り、キレイな人じゃん」
独り言のように呟きながら、あたしのつま先から頭のてっぺんまでジロジロと一通り観察する。

なんか…酪農市場の牛の気分。
ドナドナ~♪

「はじめまして」
数回視線が上下して、あたしの顔の位置で止まる。
目が合うと、翠さんは軽く会釈した。
「こちらこそはじめまして。あの、タロ…太郎がいつもお世話になっているみたいで」
「はい。お世話しまくってます。迷惑なくらい」
ははははっ、と彼女は豪快に笑う。

「あたしも4月に入ったんですよ。この大学。山田は日本の水泳界じゃ有名だし、全国大会とかで何度か会ってたんですけど、偶然この大学入って、お互い水泳部で、寮も同じで、一番最初に仲良くなったのが山田なんです。あ、ちなみにあたしは女子競泳の方ですよ。こう見えても」
すらりと長身の彼女は、おしゃべりしながらあたしを寮内に誘導する。

この子、肌の色も髪の毛の色も褐色だけど、目の色はグレーに近い薄い黒色をしてる…。
その瞳が、クールでキツそうな雰囲気を醸し出してる。
化粧っ気が一切無くて、それでもこんな整った顔をしているなんて......

なんてラッキーな!

ライナー、シャドウ、マスカラにファンデの重ね塗り無しでは外出できないあたしには、羨ましい限りだわ。

「山田はいつもいつもいつもいつもミーナさんの話してますよ。ミーナがこうしたとか、ミーナがああ言っただとか色々。だから初めはミーナさんが山田の彼女かと思ってましたよ。後から全然勘違いだって判明しましたけど。」
「ああ、あの子馬鹿なんです。アホの単細胞なんです。いちいち言ってる事相手にしない方が身の為ですよ」
「え?」
翠さんは驚いたように立ち止まる。
「あいつ、馬鹿じゃないですよ。見た目トロいけど実はすっげー頭の回転速いし、集中力すごいし。この大学だっていくら競泳の日本記録保持者でも、センター試験と英国社数の入学試験でまともな成績取ってないと特別入試でも入れないんですよ」










あれ?
成績学年最下位だったんじゃ……?










翠さんはエレベーターの前まで来て「上」ボタンを押す。
「飛び込んでからの潜水時間とかターンしてからの50メートル間の距離とか、あいつ全て頭で計算してるんですよ。普通競泳で泳いでいたらそんな事考えてる 余裕なんてないのに。だから、ストップウォッチとの時差の狂いが全くないらしい。自分で何分何秒にどこを泳いでいるか知ってるから。それに、一緒に競って る奴らがどの位置で泳いでるのか感覚で全部分かる、って言ってましたよ」
「へえ。それってすごいことなんですね、きっと」
「いや、息継ぎなしの潜水時間なんかギネス級だし、天性のアスリートだと思いますよ。あいつは」

よ、良かったね、タロ。
いい友達を持ったね。
あんたものすごーく褒められてるよ。



......それにしてもこの娘。

あたしは改めて、この背の高い佐々木翠さんに見入る。
何故かこの子には、人を魅了するカリスマ...というか見惚れさせる何かを持っている。
メス(よりオス()のニオイがプンプンするけど。

「あいつ...」
翠さんは続ける。
ミーナさんと婚約してるから、他の女とは付き合わないって言ってるんですけど、ホントですか?」





ココロは雨模様 Ⅱ    05.20.2007
はあ?」
「あ、やっぱ山田の勘違いか。いえ、大学でもあいつ有名なんで、4月にここに通い始めてから何度か告られてんですけど、皆に『俺、コンヤクしてるから~』って断ってて、その度にフラれた子達あたしの所に来て『本当ですか?』って。笑止千万ですよね。あたし、男に全然興味が無いのに、よくつるんでるから皆があたしと勘違いする」

今、さらりとすごい事言ってなかった?
でも、やっぱり...と言うべきか......この娘、どう見てもヲトコ(漢)でしょ?

だてにゲイシティーで有名なサンフランシスコで14まで育ってないわよ、あたしも。
ゲイを見分けられるゲイダー(レーダー?)は普通の日本人より敏感だと思う。

「それで、山田に問い詰めたら『俺はミーナヒトスジだよ』って。12年も想ってるとか言ってましたけど」
翠さんは、はっはっはっはー、とまた女子プロレスラーみたいな笑い声をあげる。

「あ、ホラ、ここの階。突き当たりの406号室。アクアマンって書いてある部屋」
エレベーターの“開”のボタンを押したまま、突き当りの部屋を指差す。
「アクアマン…?」
いつだったかのメルアドも“アクアマン”だった。
「アクアマンって、アメリカのスーパーヒーローらしいんですけど、ほら、スーパーマンみたいな。あいつ偉く気に入って、ずっと自分で名乗ってるんですよ」
へえ。スーパーヒーローだったんだ。
アメリカに住んでいたけど、そういうのに全ッ然興味ないから、知らなかった。
やっぱ男の子だね、タロは。

「翠さんは一緒にタロの部屋に行かれないんですか?」
ずっと“開”のボタンを押している翠さんを不思議に思って、訊ねる。
「あたしは結構です。毎日顔あわせてるし、体が資本なんで、風邪うつりたくないんです。ああ、このケータイ山田に渡しておいてくれますか?他の寮生に迷惑かかるから、あいつ月曜からずっと隔離されてて、返しそびれてるんです」
カーゴパンツのポケットの中からタロの携帯を取り出して、あたしに手渡す。
「あの翠さん、色々有難う御座いました」
あたしは深々と頭を下げる。
「いえいえ。今度山田と3人で一緒にご飯でも食べに行きましょう」
翠さんは、女のあたしも思わず見入ってしまうフェロモンたっぷり魅惑的な笑みをこぼすと
「それじゃ」
とエレベーターで再び階下に降りていった。


“406 あくあまん”
と、ひらがなで大きく書かれた表札がかかっているドアの前に立つ。

なんでだろ。
胸が早鐘を打ってる、ってこんな感じなのかな?

心臓のドキドキが止まらない。


トン、トン、とドアを叩く。

「ふええ~~~~?」
と中から相も変らぬ間抜け声。
「タロ?あたし。入っていい?」

しーん。

え!?ミ、ミーナ?!ちょ、ちょっと待って!!ゴホッ」
ゴホゴホという咳の音と、ガサゴソと大きな物音がする。

エロ本でも隠してんのか、ヲイ?


と突っ込みそうになるのを抑えて、
「入るよ?」
とドアを開けた。


う......。




いつかTVのワイドショーで見た、ゴミ屋敷かココは!





タロの寮室は、漫画雑誌や作りかけだか部品が欠損しているプラモデルやらビデオゲームやらダンベルやらあちこちに脱ぎ捨てられたやら競泳用の水着やらゴーグルやら紙くずやら教科書らしき本やらコンビニの袋弁当やらそれらの食べかすやらで埋もれていた。

この部屋の主は、ジャージの上からハッピを着た格好に、顔の半分をマスクで覆って、ヨロヨロフラフラしたまま部屋を片付けている。

手遅れだっつーの。

「もう遅いよ。あんたの部屋が汚いのは昔からよーーーーっく知ってるんだから、病人は大人しく寝てる!」
「うう......」
と唸りながらタロはヨロヨロとシングルサイズのベッドの上に引き上げる。
体が大きいので足がベッドからはみ出てる。

「何しに......来たのお...?俺、あの日のことは謝んないかんね......」
ゴホゴホゴホッ!!
と咳き込みながらタロは呟く。
マスクの下の顔も真っ赤で、苦しそうだ。
「あんたの忘れ物、届けに来たよ」
「......それだけ?」
タロの眉が八の字になっている。
また捨てられたワンコの顔。

「......看病もついでにしたげる」
あたしはバックの中からハンカチに包んだメダル2つを取り出すと、授業のプリントなり紙幣なり走り書きされたメモなりのあらゆる紙束が乱雑に置かれているタロの机の上に置いた。
「.........ありがとぅ」
弱っているタロは、蚊の鳴いたような小さな声で礼を言う。
「あの...あいつは?眼鏡のアキ......ッゴホッゴホ!」
「ああもう喋らない!坂口さんの事だったら、アレ以来会ってないよ。えっと......洗面所は?」
部屋の中を見回す。
「......共同キッチン.........か...ゴホッ......シャワールームぅ...」
そうだった。
寮でしたここは。
「ちょっと待ってて、今タオル濡らしてくるから」
あたしは床に落ちていた“清潔そうなタオル”を拾い、共同キッチンとやらに行って水につける。
それをよく絞って、部屋のベッドに横たわっているタロの額に乗せた。タロが大人しくしているのを確認すると、窓を開けて陰気な空気の入れかえをしたり、床の上のゴミの山を片付けたりと、テキパキ動いた。

「ミーナ...やっぱ......やさし......ゴホッゴホッ」
一通りのことを終えると、タロのベッド脇に勉強机の椅子を持っていって腰掛ける。
「だから喋るなって。大人しくしてなさい!」
「......あい」
ベッドの布団の中のタロは少し嬉しそうに微笑む。
「何か欲しいモンとか必要なモンある?食べ物とか、ジュースとか?」
「......みーなが必要」
「ミーナ以外の物!」
「......ぶうぅ」
タロはマスクの下の口を尖らせて、つまらなそうな顔をする。


「あの、さ...」
タロが目を閉じているのを良い事に、あの日から言わなければ、と思っていた事を口に出す。
「この間カフェでタロが大声で言ってたこと...ずっと考えてたんだけど」



「タロはさ、やっぱタロで、あたしの幼馴染で弟みたいな存在でさ。だから....たの事......」
♪ジャンジャンジャンジャンジャーーーーーーーーーーーン♪!!!!!!!!


突然ステレオから大音量のハードロックが流れ、あたしの語尾がもぎ取られた。

気づくと、タロがステレオのリモコンをベッドから操作していた。

ジャンジャンジャンジャンジャジャジャーーーーーーーーーーーーーーンッ♪
「タロ、うるさい!人の話を......」(←音楽で聞こえない)



ピタ。

と音楽が止む。

タロは上半身を起こして、あたしに向き直った。
「......じゃあ、1回ッゴホゴホッ...1回デートしてよ。それで...駄目だって......ミーナがゴホッ...言うなら......俺考える...ゴホッ...よ」

ああ、この眼に弱いんだわ、あたし......。
『捨てないで』と言わんばかりの寂しげな表情。
タロの大きな目がウルウルしてる......ように見える。


「いいよ」
「え?!ゴホゴホゴホッッ」
「いいよ。1回だけなら。あんたがこんな風に風邪引いてんのも、どうやらあたしのせいみたいだし」
「うそ?ホントにぃ~~~~?!やったあっゴホゴホゴホゴホゴホッ!!オゲエ~~~~~~!!
パッと目を輝かせた後、辛そうにゴホゴホ咳を吐いたタロは体を捻ってあたしの首に抱きつく。

風邪を引いているせいか、とっても熱いハグ。
「ううぅ~~~。ミーナ俺、ゴホッ…うれじい"~~~~~大好き!」

あーあーあーあー。お姉さんこういうダイレクトな告白に免疫無いからっ。
「風邪うつっちゃうよタロ。離れなさいっ」
タロを押しのけ、立ち上がる。

顔が真っ赤じゃありませんように。
大人の余裕を見せて......。

コホン、と小さく咳払い。
「とにかく安静にして、治ったらあたしにTELしなさい。番号はあんたの携帯に載ってるから。OK?」
ポンッと翠さんから預かったタロの携帯を放り投げる。
反射神経でパッとキャッチしたタロは、
「おっけーいっ!ゴホッ」
と大きなタロスマイルをあたしに返した。





デートin東京     05.20.2007
翌日。
職場での昼休み、タロから早速電話が来た。

は、早えぇ。
昨日あんな苦しそうだったのに、何て回復力なの?!
「もしもし?」
「もっしもーし、ミーナぁ?」
「すごい回復力ね。もう元気になったの?」
「あい。気合で治しましたぁ、隊長ーーーーっ」
気合って…病気って気合で治るもんなのか?

でも。
「良かった...」
ちょっと声が聞けて、安心。
「ミーナ、何してんのお?」
「昼休み。サンドイッチ食べてるよ」
「俺もキューケイ中ッ!また3時から泳ぐけど」
相変わらず、声がでかい。
ピピッ、と音量を“中”から“最小”に切り替える。
「ミーナさあ...今週の日曜日ひまぁ?」
日曜日......か。
「多分、大丈夫だと思う」
「ええっ、多分?たぶん?たぶんってぇ、あの眼鏡のアキバと約束ないよねぇ?」
「だから、アキバじゃないって」
無いよねぇぇぇぇぇぇぇぇ?
心なしか前よりシツコクなってるよ、この子。
ハイ、もうお姉さん降参。
日曜日付き合ったげる。

「無いです。いいよ、日曜日。どこ?」
「しぶやっ!!」
即答。
し、渋谷ですか。

「渋谷のどこで待ち合わせ?」
まさか...。

「ハチ公前!!」
や、やっぱり。
べ......ベタな待ち合わせ場所だね。

「わかった。10時半にハチ公前ね」
やっほ~~~~~~~~♪と叫び声をあげるタロにあたしは、
「また何かあったらTELするから」
と言って電話を切った。




ちょっと遅れてしまったあたしは駆け足でハチ公前出口に向かって走っていた。

いやね、別に寝過ごすつもりは無かったんだけど、こんな日に限ってあたしのアラームクロックの電池が切れててね…。

時計の針は11時15分をさしていた。
ひええええええええ~~~~ちょっと所じゃないわっ。45分も遅刻してる。
しかも、めっさ急いで支度して電車に飛び乗った後で、携帯を持ってき忘れた事に気付く。
最悪だ、あたし。
ゴメン、タロ。心のなかで平謝り。

人だかりが出来てるハチ公前に着くと、あたしは早速あの犬顔を探した。
あれ?居ない?
もう帰っちゃったかな?
そうだよね。連絡も無しで遅刻だし。

付近を何度もグルグル回っていると、後ろからポン、と肩を叩かれた。
「やっと来たぁぁ~~~~~。何かあったのかと心配したよぅ」
聞きなれた、ヘタレ声。
後ろを振り向くと、野球帽を目深にかぶったタロが立っていた。
今日はジャージではなくて、デザイナーTシャツにジーンズ。そして、サンダルではなくて、コンバースのスニーカー。

「タロ、あんたもしかして今日…“おめかし”してる?」
一方あたしの方は、そこら辺の物をテキトーに掴んで羽織ったので、ジーンズにTシャツ、カーディガンに履きすぎて先端が黒ずんで合皮が剥げかけている白パ ンプスといういたって地味な格好(と、言うよりやる気ナッシングの格好)な上、グロスにマスカラしか塗っていない、ノーメークに近い化粧姿だ。

あたし的に言うと、もうこのメークは裸で町を歩いているようなもんなんだけど。
まあいいや。後で直そう。

「佐々木が勝負服にはこれ着ろってぇ。ずえーーーんぶ新品!パンツまでおニューデスよ。見るぅ?」
「見ない。でも、似合ってる」
「へへへ」
とテレ笑いを浮かべたタロは、「行こっ♪」とあたしの手を引っ張って雑踏の中を誘導した。



「おおっ。あれがウワサのマルきゅ~~~っ」
ああっ田舎者丸出し(泣)
建物一つ一つ指差して
「パルコ~~♪」
「スペイン坂~~♪」
生まれて初めて東京に来た地方の中学生のような恥ずかしい反応をするタロの後についていく。
いや、中学生すらしないだろ。こんな反応!
「フジヤマ~~」とか言ってる外国人と同レベルだよ。
他人のフリしたひ…。

でも洋服を見たり、CDをチェックしたりと楽しそうなタロを見ていると、ついつい奴のペースに巻き込まれて付き合っちゃっている自分に気付く。

この子、太陽みたい。
昔から好奇心旺盛で、恥とか羞恥心とか失敗を恐れないで真っ直ぐに突進していく。

ある意味、単純バカ
だけど、周りはそれに巻き込まれてっちゃうんだよね。


センター街を闊歩していると、そういえば昔(元カレと)よく食べに行ったお寿司屋さんの事を思い出した。
何時だろ?
「タロ、この通りの外れの回転寿司、安くて美味しいんだけど、行く?」
タロは帽子の下の目をパッと輝かせて、腕時計を見る。
「あっ、昼ごっはーーーーん。スシ?スシスシ?たっべる~~~!」
と上機嫌で頷いた。





デートin東京 Ⅱ    05.20.2007
 「ねえ、食べる時くらい帽子取ったら?」

30分並んでやっと入れた回転すし屋のカウンターに座った所で、あたしはタロの帽子を指差した。
「あ。コレぇ?オッケー。ああああっマグロ通り過ぎちゃったあ~~~~」
まだお茶すら出されていないのに、タロはもう1皿目のサバを食べ終えてマグロに狙いを定めていた。
帽子を取ると、毛先だけ赤茶けている
ペチャンコの黒髪をクチャッとかく。
「ミーナも食べなきゃソンだよー。せーげん時間30分だからねっ」
「はいはい」
超ハイペースで次々と寿司を平らげていくタロを横目に、あたしは何故か徐々に自分に集まりつつある視線に違和感を感じ始めていた。

あたし、もしかして今日眉毛書き忘れてる?
麻呂状態?
それとも、鼻〇ソが顔についてるとか?

そんな、あたしの女としてのプライドが……。
一応嫁入り前だし、いつ赤い運命の糸で結ばれた男が現れるとも限らないし、ちょっとお手洗いでチェックしなきゃ。


「ハイ。ミーナの好きなハマチっ」
ぼんやりと考えていると、タロがハマチをつまんであたしの口元に持ってくる。
「あ~~~~~~~~んだよ、ミーナっ」
「は、恥ずかしいでしょ、もう」
あたしはタロの手からハマチを奪うと、自分で口に運んだ。
「ミーナの恥ずかしがり屋さぁーん。でもいつか男のロマンの食べさせっこしよーねぇ。ミーナはメイド姿でぇ、俺の膝に乗ってぇ~~~~~~……」
「はいはいはいはい。それは永遠にないから。あ、アナゴだ。いただきっ」
こんなお馬鹿の妄想には付き合ってられません。

それにしても…。
お客さんのみならず、ベルトコンベーヤーの中でせっせと握ってる寿司職人まで、チラチラこっちを伺ってる。



あたしって、もしかしてそんな美人?



なーんてブスの大勘違い真っ只中で赤くなってるあたしを通り過ぎ、板長さんらしき人物が店の奥から色紙とマジックペンを持って横に居るタロに突き出した。

「山田太郎さんですよね?水泳の?サイン一筆いただけませんかね?ついでにお写真も…?」
「ホゲ?」
エビの尻尾が口から飛び出したマヌケ面のタロは、「いいですよぅー」と快諾する。
きったない字でサインをして、パチリと一緒に写真を撮ってあげていた。

「そう言えば、あんた有名人だったのよね」
その後、数人のお客さんと握手を済ませたタロに向き直る。

この注目は全てこいつにあてられたもんだ。
だから帽子を深ーーーーくかぶってたってワケね。
自分の大勘違いを深く恥じる。
「ミーナ、板長さんがタダにしてくれるってぇー。良かったねっ♪もーーーっと食べちゃおぅっと!」
隣で頭を振っているあたしをよそに、タロは15皿目に突入していた。




「おいちかった~~~~~。ちあわせ~~~~~♪」
お寿司屋さんから出ると、あたし達は再びどこへとなく歩き始めた。

タロはごく当たり前のように、あたしの手を探り当てて掴む。

……。
やっぱ図々しくなってるわ、コイツ。

何故か決まり悪くなり、照れ隠しのようにあたしは言葉を探す。
「そう言えば、よくこうやって2人で駅前の商店街まで遊びに行ったね。懐かしい。あんたなんてあたしの半分も背丈無かったよね」
チビだったタロは、あたしの歩調に合わせるのに精一杯だったのに、今はあたしがタロに合わせて早歩きしてる。

「ミーナ駅前の駄菓子屋でよく、う〇い棒とかラムネ万引きして……」
してません!!人聞きの悪い事言わないっ」
ガッ。とタロに蹴りを入れる。
「ううっ。暴力はイケませんヨゥ」
タロは泣きまねをしながらも、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

気付いたら、原宿に向かって代々木公園の横を歩いていた。

「タロさ、大学生活楽しい?この間タロが熱出した時、翠さんがあたしに知らせてくれたんだよ。いい友達持ったね」
「翠ぃ~~?佐々木の事ぉ?ああ、心配しないでミーナ。あいつ、れずびあんだから」
別に心配してないけど、それはモロ直感でわかりました。
メスを落とそうとするオスのにほひがぷんぷんしてましたから。

「今度翠さんと3人でご飯食べよう、って話したよ」
「むう」
タロは一瞬考えて、
「ミーナ佐々木に何か言われたっ?口説かれたっ?」
と、ちょっと焦った感じで問い詰めた。

「あー、ナイナイ。タロの事すごく心配してたよ、彼女」
ふうん、と呟いてタロはしばし押し黙る。
「他に…俺の事言ってたぁ?」
「別に。褒めてたよ。努力家だとか天性のアスリートだとか色々」
「他には?」
「他に?例えば?」
タロは「うっ」と言葉に詰まると、意味も無く帽子のつばを上げ下げする。

「ミ…ミーナの事……とかぁ?」
「うん。言ってた」
「え、ええええええええ??!!何て?何て??!」
タロはあたしに向き直り、手を握っていない方の腕を掴む。

面白い。
焦ってる焦ってる。

「あたしの事、色々と…」
「色々と?!」
「よく話してるって」


静止。



「それだけ?」
タロは間の抜けたように聞き返す。
「それだけ」
「そっかあ…」
ガクッと首がうなだれる。

ヲイヲイ。どんな事言ってんだ、あたしの事。
まあ、想像はつくけど、ね。

「公園歩こっか、タロ」
あまりにも公園の木々が爽やかなので、あたしはタロを歩道から公園内に引っ張った。
「うん。きっもち良いね~~~~~♪東京は公園の中も人がいっぱいだねぇ」
タロは大きく息を吸って伸びをする。
「ハナゲ伸びた?」
「伸びまっくり~~~~。この間“手入れ”したら俺、鼻の中切っちったぁ。鼻血ブーーーーのスプラッタ~~~!」
「馬鹿だね、相変わらず」
タロが鼻毛の手入れと格闘している場面を想像して、思わず噴出す。

相変わらず、握った手を離そうとしてくれない。
温かく、適度に湿っているタロの大きい手…。


ヤダ、あたし手の事考えてたら……全神経が手に集中しちゃってるしっ。
その上、ど…どきどきが……。



だああああああぁぁぁぁぁ~!!!!
こーんなコムスメコムスコごときにぃーーーーーーっ。

大人の理性、理性。
ふーっ、はーっ、と息を整える。

はっ。こんなシチュエーション。
幾度もの恋愛遍歴を誇る水名子さん(自称)には『中〇生日記』みたいに生っちょろいもんよ。

あたしなんて、日〇ロマンポルノ風エロロマン経験済みだしっ。
杉〇彩なんて目じゃないんだからねーーーーーっ。
ねーーーーーーーーーーーーっ。



しばらく公園内を歩いていると。
「ちょっとベンチで休もっかぁ?」
とタロが50m先の空いているベンチを指差した。


確かに……渋谷からずっと歩き続けていて、足が痛かった。





デートin東京 Ⅲ    05.20.2007
 「ミーナちかれた~~~?」
ベンチに腰掛けると、タロはあたしの顔を覗き込んできた。
「少しだけ、ね。タロは?」
「ずえ~~~んずぇん!!俺、母をた〇ねて3千里どころか5千里行けちゃうよーっ」
やっと繋がれっぱなしだった手を解放してくれる。
「休んだら、原宿行きたい?」
ベタなデートだな、ヲイ。
渋谷に原宿…これでクレープ食べてアイドルのブロマイドでも買って帰ったら完璧

☆オノボリサンコ~ス☆

「行く行く~~~。クレープぅ~~~~!」
やっぱり(ガクッ)
「でもその前に……ミーナ足見せてっ」
「え、足?」
あたしは足を組んで、隣のタロに見せる。

あ。ヒールの部分……靴擦れしてマメが出来てる。
だから足が痛かったんだ。

「俺、絆創膏持ってないんだった。ミーナ持ってるぅ?」
「多分、1枚か2枚なら」
肩掛けバックの中から絆創膏を取り出して、踵のマメに貼ろうと屈むと
「かーしてっ」
とタロに取り上げられてしまった。

あっという間に、タロの膝の上に両足を乗せた、半分お姫様抱っこみたいな格好になる。

「いいよっ。自分でやるから」
と身を引こうとするあたしを
「良い子にしなさーいっ!」
と何故かタロはあたしを叱る。

しばらくタロとの格闘が続いて、あたしが降参すると、タロは右足からあたしの靴を脱がせ始めた。

「あの、だから、にほひ(臭い)とかするだろうし、さっさと……」
タロは真っ赤になってるあたしを完全にシカトして、マメにターゲットを定めている。

ピタ。
「右足完了ーーーーーっ!次、左足ぃーーー!」
同じく、ピタッ、と絆創膏を貼ると、タロはあたしの足を解放してくれた。

「ミーナの足、キレイ。臭いなんてぜーんぜん無い………………よ」

あ、目が合った。






かあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ



そんな擬音が聞こえてきそうな程、お互い真っ赤っか

オーマイガーーーーーッ!!
何だごの”空気ィィィ~~~~~~???!!


た、耐えられない。

駄目だあたし、こういう月9みたいなシチュエーション
80年代の漫画にあった(古っ)青春ラブストーリーみたいな空気。

こういうのは長澤ま〇みちゃんとか、も〇みち君に任せておこうよ。
美少女と美少年に任せておこうよ。ねっ。


「ありがとっ」
あたしはさっさと足をタロの膝からおろすと、
「さあ行こっか」
と立ち上がる。
「ま、待って!!」
とタロがあたしの腕を引っ張って、またベンチに引き戻した。

「どうした……んっ」
タロに振り返りざま。


「〇×〇×〇×〇×〇×〇×っ!!!!!!」








唇が、重なった。
パサッ、とタロの帽子が地面に落ちる。

タロのちょっと厚めな唇が、あたしのソレを覆い、ゆっくりと上下の厚さを堪能するようについばむ。

うわあ。
What A KISS!


そのうち、舌が進入してきた。
あたしの舌を刺激するように、つついたり、絡めたり、口腔内を確認しながら、
甘く甘~~く移動する。


やば……ちょっとあたし…ホーニーになってきた……かも。
血液が一気に上昇して、体が火照り始める。

も、これ以上…されると……。

反射的に、タロの胸を押していた。







「ごごごごご、ごめんなさあいっ!!!」

長い熱い口付けが終わると、心なし息が荒くなっているタロは真っ赤な顔のまま、だけどしっかりあたしを見据えながら謝った。
タロも、動揺してるみたい。

「あ…あんなカオのミーナ見たら、お、俺、押さえらんなくって、え……えーとぉ…」
「キス、上手いじゃん」
「ぇ…へ?」
タロが素っ頓狂な声を出す。
「どこで習ったの?いきなり...すっごい……上手かった」
言いながら、あたしの顔が再度火照るのが分かった。





デートin東京 Ⅳ    05.20.2007
 キスだけでこんな感じちゃうなんて……何年ぶりだろ?

「あの…もっかいしていい?」
タロが言いにくそうに、例のアレ(上目遣いのお願いします風ワンコの目)で、あたしに詰め寄る。
「ダ、ダメだすっ。もう今日は!」
やばい、噛んだ。
動揺してるぜ、水名子さん。
ドキドキがとまんねえーーーー!!!

「なんでぇ?」
タロが不満そうな声を上げる。
「なんでって、こんな事してたら……あたし達元に戻れなくなっちゃうでしょ?」
嗚呼、目が合わせられない!
ずっと下を向いたまま、手はタロの胸を押しやったままのあたしは、気まずくなって横を向く。
「俺はもう戻りたくナイよ。蛇の生殺しだもん……」
「駄目。ダメったら、ダメ。今日はもう…」

「俺さあ……」
タロの胸を押さえているあたしの手首を掴んで、タロが囁く。
「馬鹿だし、水泳しか“とりえ”無いけど、ミーナの事、本気だよ?遊びとかじゃなくって、すっげー本気。ずっとずっと好きだったよ。12年以上も前から。 2年前田舎に来てくれた時、やっぱ俺確信したんだよねぇ。俺、ミーナの事ずぅーーーーーっとココで待ってたんだあ、って」
耳まで真っ赤になりながら、タロは言葉を紡ぐ。
「ずっと自分のやりたい事知っててぇ、周りが何と言おうとそれに向かって突っ走ってって、通訳とか翻訳とか、世界を股にかけてるミーナ見て、俺もミーナと同じくらい世界に羽ばたけるヲトコ(漢)になりたいなあ……って思った。ミーナに認めてもらいたいなあーーって。」

“世界をまたにかける”がオリンピックで金メダルですか、チミは。
スケールでかっ!!

「もう認めてるよ。ほら、Boys be……」
「あんびしゃ~~~~~~っす」
「そう。あれ、殆ど全て実行してるじゃん、タロは。平泳ぎだったかバタフライだったか自由形だったか忘れたけど、日本新記録持ってるし、全国大会で優勝してるし、オリンピックだって……」

「ミーナ今、誰か男いるっ?あのアキバとはまだ付き合ってんの?!」
人の話をまたもや無視して、太郎は声を上げる。
ぐっと手首を掴んでいる手に力が入ったのを感じた。

犬みたいな目が……真剣だ。

「アキバ、って坂口さん?何度かデートしたけど、今じゃ普通の友達だよ」
1回ヤラレちゃったけどね。
でも言わない。

すぅ、っとタロがあたしの手首を開放してくれた。
「なあんだ。良かったぁぁぁ~~~」
タロはあ~~~、と安堵のため息をついて、頭の後ろで腕を組む。
と、思ったら、今度は眉間にシワを寄せる。
ほんっと、コロコロ表情が変わるわ、この子。
「俺…さあ、ミーナの過去の男の話なんて、考えたくもないし聞きたくもないけどぉ……でも実際あの眼鏡と一緒にいるミーナみて、すっげーシットしたっ。頭オカシクなる位」

ちょ、直球ーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

「やっぱもうダメ……俺、言うよ。次のオリンピックまで待とーと思ってたけど、変な虫これ以上ついて欲しくないしぃー」
独り言のようにブツブツ呟きながら、タロは意を決したように「うん」と頷く。

と、ベンチから跳ね上がるように立ち上がって、あたしの前で土下座する。

「ちょっちょっ、どーしたの突然?!顔上げてよ!!!!」

まじで、こんな公衆の面前で。
何かのプレイとか思われるでしょ!!

タロは三つ指つけて、深々と頭を下げる。


「俺と、正式に付き合って下さいっっ。お願いシマッス!」



顎関節症のあたしの顎が、外れそうになった。
衝撃の告白。

今時、こんな告白の仕方有り?
こんな
『お嬢さんを嫁に下さい』風の土下座されて、あたしはベンチで足を組んで座ってて、傍から見たら……

SMの女王?
「足をお舐めなさい」ですか?

あたしはどーすりゃいいんだ????


「とりあえず……時間が欲しいよ、タロ」
あたしはオロオロしながらタロに答える。
「いつまで?明日ぁ?明後日ぇ?明々後日ぇ?」
素早く顔を上げて、タロは複雑な表情で聞き返す。

「多分……1週間以内……かな」
「ようし、オッケーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ガッツポーズしながらタロは立ち上がる。

いや、別にあたし「はい」とは……。
何だこの喜びようは?

「じゃあ、ミーナの1週間俺にちょーーーだいっ。『ダメです』なあんて、絶対言わせないかんねっ」
そういうが早いか、タロは膝や手の土を払い落としあたしに再び手を差し伸べる。

「そうと決まればまずは腹ごしらえだねぇっ、隊長!!!クレープ食べにいこっ!!」
と、あたしの手を再度引いて、原宿方面へ歩き出した。





原宿でクレープ食べて、洋服や小物を見て、表参道ブラブラして、気付いたら時間が物凄い速さで過ぎ去っていた。

表参道駅から渋谷駅に戻ろうと、電車に乗る。
帰宅ラッシュ時で混んでいる車内に乗り込むと、あたしはタロに訊ねた。
「タロ、今晩は練習無いの?」
ドアの真横で、タロはあたしを他の乗客からガードするように立ってくれてる。
「するよー。帰ったら」
タロのG-SHO〇Kの腕時計を見ると、6時30分を過ぎていた。
顔をあげると、タロが寂しそうにじーーーーーっとあたしを見ている。
「ミーナ、帰りたい?」
いや、そういう意味で時計見てたんじゃないけど。
「ううん。でも、タロ練習あるんでしょ。毎日練習してるんだなー、と思って」
あたしの顔を覗き込むタロに向かって微笑む。
タロは
「日本選手権ちかいからねぇ」
とため息交じりで答えた後、「あ」と手を叩いた。
「ミーナ、6月8日あけておいてねっ」
「6月8日?何が有るの?」
「俺の決勝せーーーん!」
俺の…?
「え?予選は?」
タロは顔の前で手を振る。
「だいじょーぶだいじょーぶ」
大丈夫なもの...なの?
「ふうん。んで、8日はタロが出るのね?」
「8日だけじゃないけどぉ、もし何ならミーナ6月7日と8日両方応援来てよっ♪俺、7日に平泳ぎ出るけど、8日は自由形50にメドレー出るしっ。あー、したら超やる気出るぅ~~~。カ〇ロット太郎もスーパーサ〇ヤ人に大変身だよっ」
ニィ、と口角をキュッと持ち上げて微笑むタロ。
「マニアックな……。あ、無理無理。両方は無理。でも、8日は開けておいてあげてもいいよ」
あたしがそう言うなり、
「やったねぇーーーー!」
と混んでいる車内のどさくさに紛れるフリしてあたしを軽く抱きしめた。





「浮気はー、ぜーーーーーったいダメだかんねっ」
「はいはい」
「ラブコールは毎日デスよ。オーケーイ?」
「OK」
「5日後は何の日ですかぁ~~~?」
「タロがうちに来る日です」
「ハイ。カクニンオッケーーーーーッ」

タロはいちいちこれから先1週間の予定をあたしにカクニンすると、駅の改札まであたしを見送りに来た。タロとはここでお別れだ。

「じゃ、電話頂戴ね。タロ」
あたしが踵を返して改札口に向かおうとすると、腕を引っ張られた。
タロは屈んで
チュ。
とあたしの唇に小さくキスを落とす。


やっぱだんだん図々しさが増してるよ、この子はあ!!!(←怒)


「キッスどろぼ~~~~♪ゴチでぇーーーっす」
上機嫌なタロは、あたしの姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。





サンクチュアリ    05.20.2007
 あれから毎日、タロから電話が来るようになった。

気づくと、仕事の合間や電車の中で頻繁に携帯をチェックしている自分が居た。
電話で直接話が出来なくても、
「俺、今授業の移動チュウでぇっす。隊長はどっこでっすかぁーーー?」
なんてものから
「平泳ぎ自己ベスト更新したよぅ~~~!お祝いにミーナの裸エプロンが見たいどぇーーーっすっ」
なんてものまで、あたしの留守電にはチェックする度必ずタロのメッセージが入っていた。

もしかして、あたし徐々に......タロワールドに洗脳され始めてる...のか?
タロがあたしの心のサンクチュアリに侵入してる!?


約束の5日後。
タロは久しぶりにあたしのアパートへやって来た。
今日も練習直後らしい、半渇きのクチャクチャヘア。
ドアを開けるなり、
「ただいま、マイハニィ~~~~」
ぎゅ~~~~~~っと抱きしめられる。
「ハニーじゃないっ」
ゴン、とタロの頭にゲンコをくらわす。
「全く、どこでそんな英語覚えたの?」
近所に見られていないかキョロキョロと確認して、タロをアパートの中に引き入れる。
「ビバリーヒルズ青〇白書ぉ借りて観たぁ~~~~。ディランが言ってたよー」
ビバリーヒルズ......?
それって90年代のテレビシリーズじゃ...??
古っ。

「あーそうですか。それは良かった。んで、夕飯どうしようか?スーパーにいって何か買おっか?」
Tシャツとジャージという、いつものタロファッションに身を包んでいるタロは、キッチンの方へやってきて、冷蔵庫の中や戸棚の中を勝手に確認しだす。

わざとか無意識か、あたし越しに上のキャビネットの戸を開け閉めして食材や調味料を探している。
タロの男らしい喉元と顎まわりが目の前にあった。

翠さんが言ってたけど...もてるんだよね、この子。
タロの不快では無い匂いがあたし付近を取り巻く。

確かに......こう目の前で見ると、背が高いし、顔も中の上くらいだし、けっこう男の色香......があるような無いような...?

「多分俺......何か中華作れるアルヨ」
これさえ無ければ。
黙ってさえいれば馬鹿だってわかんないし、見られない事も無いのに。

ニラ、トマト、ベーコン、冷や飯に卵を取り出すと、さっさとそれらを適当に刻んで、パッパとフライパンで炒め始める。

は、速い!
そしてこの手際の良さ!
女のあたしの面子丸つぶれっす。

タロは20分もしないうちに、豚トマトとネギチャーハン、ニラ玉を作ってくれた。

「おじさんとおばさんは元気?」
タロの中華料理を食べながら、タロのご両親のお店をふと思い出して訊ねる。
「母ちゃん、ほぼ毎日電話してくるよぅ~~~。ご飯食ったかとか、服洗ったかとか、どーでもいい事ばーっか。父ちゃんはまだ元気に生きてるみたい~」
思わず、苦笑。
おばさん、やっぱ心配してるのね。
「ミーナの父ちゃんと母ちゃんは?」
「お父さんは相変わらずマジメ~に仕事してるらしい。お母さんは、今韓国俳優とドラマにど~~~~っぷりはまっちゃってる。東京のあたしに会いに来ないで、韓国にばーっか遊びにいってるみたいよ」
あたしがこんな風にタロに会ったり、デートしたり、ましてや告られたなーんてお母さん、露知らずなんだよなあ。
「ミーナの母ちゃんはミーハーだなぁ。俺んちの母ちゃんなんて演歌歌手しか知らんぞ」
タロは喋りながらぺロリと自分の作った料理を平らげた。



食事を終えて。
あたしは皿洗いを終えると、リビングのソファに座ってテレビを観ているタロにデザートにと抹茶アイスを持っていった。

「あの......さぁ」
お笑いクイズ番組を2人でアイスを食べながら観ていると、タロが突然隣のあたしに向き直った。
「キス、していい?」
おずおずと、落ちつかな気に訊ねる。
タロの視線は、アイスを食べてるあたしの口元に.........。


って、きゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~////////

心臓がバクバク鳴り始めた。

この小説、擬音と感嘆詞ばっかって思われているみたいだけど、もうどうでもいいやっ。

こいつのせいで、あたしの寿命が減ってる。絶対!

「い......いいけど、別に」
「うしっ。じゃあミーナ、目ぇ瞑ってぇ」
そんなあからさまに指示されると......。
テレルじゃねえかっ。

でも言われたとおり、目を瞑る。

ゆーっくり重なってくる、タロの唇。
何度か確認するように押し付けた後、下唇が捕らえられる。
「......んっ」
ゆっくりたっぷりと味わった後、上唇も同じ風に優しく味わう。
「...んんっ......ぁ」
そのうち、タロの舌が恐る恐る侵入してきて、あたしのソレに絡み付いてきた。
口の中を確認するみたいに、歯の裏から頬の内側まで、舐めるように味わう。
お互いをせせりあう。
「ん...ん......っ」
「ミーナ......甘ぃ......」
タロの口の中も、ほのかに甘くて苦い抹茶の味がする。

ああ、まただ。

体がひとりでに発情しちゃう。
下肢がうずうずしてきた。

たかがタロとのキスで。
されど、タロとのキスで。


「ミーナ、俺.........」
長~い拷問のような口付けが終わると、タロはまごついた声で囁いた。
「今、すんげぇ~~ミーナが欲しい........かも」




サンクチュアリ Ⅱ    05.20.2007
 「今、すんげ~~ミーナが欲しい.........かも」



どっか~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!




あ、あたしもですたいっ。(←動揺)



でも。
「駄目だよ、タロ......。うちらまだ付き合ってるわけじゃないし......」

嗚呼、なんだこの3年B組の生徒が同級生に呟いてそうなセリフはぁぁぁぁ!!!

「今日ココに泊まっちゃだめ......かなぁ?マジでミーナが欲しい......よ」
ゴツン、とタロのオデコがあたしのオデコに軽く当たり、鼻の先がうっすらと触れ合う。
タロの黒目がちの大きな瞳が超どアップだ。

「俺、ミーナの事考えて何度も独りでショリしたし、夢精したよ...」

そ、そんな事言うかフツウ????
二の句が継げない。
ああ、この子の辞書に『フツウ』なんて文字は載ってなかったんだ。

「この間、ミーナのハダカ見ちゃった時も、何度も何度も夜のオカズにしちゃったからね......」
「あ、あのねタロ、そんな事言われても.........」

オカシイ。

これがネットで出会ってた男とだったら、フレンチでも食べて、お酒でも飲んで、ムード全開で、ピーチ〇ョンで買った超セクシー下着着て朝までベッドイン!てコース突っ走ってるんだけど。

今日はピーチ〇ョンの下着の面積4倍はある、ヘソまで隠れるグ〇ゼの白綿パンツだし。
酒なんて一滴も無い(相手は未成年)、ニラ臭い中華食べたばっかだし、ムードもクソも無いはずで...。


「ミーナの胸、触っていい?」
タロはオジオジしながらあたしの首にかかっていた手を移動させる。

ゆっくりと、タロの手が服の上からあたしの胸を包み込んだ。
「すげ.........やわらかい」

えーと、あのう、触り方がぎこちなくって、乳がん検査みたい......なんスけど。

時間をかけながらタロの手がリズミカルにもみ始める。
あ、だんだん気持ち良くなってきた...かも。

そのうちあたしのピンク色の頂は、タロの愛撫に反応しだして硬くなり、ブラの中央を押し上げ始めた。

その微妙な変化を察知して、タロの親指が真ん中の凸を擦る。
「ミーナ......ここカタイ」

ヤバイ、あたしかな~~り感じちゃってる。
服の上からの愛撫だけで。


お、お、お、押し倒したくなっちゃうじゃないの~~~~~~~!!!


「タロ......やっぱあたし今日は駄目。出来ない」
理性という理性をかき集めて、あたしはタロを押し止める。
「えええええ~~~~」
明らかに落胆した声のタロは、がっくりと肩を落とす。
「でもっ」
あたしは何故だか後ろめたい気持ちになって、考えるより先に言葉が出てしまった。
「今夜は泊まってもいい...よ」
そろそろとタロに寄り添う。

「えーと......タロに......触ってもいい?」
ああああ~、あたし言ってる事矛盾してないか?
出来ないとか言っときながら、こーんな積極的な発言してるしっ。

もう自分で自分が何したいのかわかんないよ~~~。

タロはハッと弾かれたように顔を上げて、目を見張る。
やがて意を決したように
「......いいよ」
とあたしの手をとった。
その手を、タロのジャージズボンの、もうくっきり形が浮き出ているソコに誘う。


うわっ。
もうこんな大きさ.........。


形を確認するように、その付近を上下する。
「あっ、ミーナ......そんな風にされると.........っ」
ビクッ、とタロが反応する。

「俺、今......世界一シアワセ.........かも」

柔らかい布越しに、太めの根元から少し硬くなっている中央、張り出した先端にかけて、ゆるやかに上下しながら擦っていく。

動きの度に、徐々に体積を増していくソレを愛しく思う。

「.........俺、ミーナのハダカもっぺん見たい...」
目を瞑って天井を仰ぎながら、タロはうわ言のように呟く。
「一生に一度の......オネガイ。ミーナ............」
「タロ、一生に一度のお願い12年前にもう10回以上使ってる。だから駄目」
そういって、タロの膝の上の手を退ける。

やっぱりあたし、意地悪だ。
昔も、こんな風にタロをいじめていた。

タロの忍耐を、我慢を試すみたいに。


もし、タロが今夜一線を越えないで、ちゃんと理性を保てたなら.........。


あたしは辛そうに首を仰けているタロを凝視した。






サンクチュアリ Ⅲ    05.20.2007
 でも、あたしの中の小悪魔水名子は、更に意地悪な要求をタロに突きつける。

「タロ、服脱いで」

フェアじゃない。

そんなのは百も承知だ。

あたしと付き合いたいタロは、絶対あたしに「NO」と言えない弱い立場にいる。

「ええっ?俺がストリップすんのぉ?」
タロは吃驚した顔で、あたしを熟視する。
「どっちかと言えば......俺ミーナの見たい」
困った顔で、タロは贅言する。
「駄目。今夜は」

「う~~~、ケチ~~~~~」
と文句を垂れながら、タロは一気にTシャツを脱いだ。




うわっすごっ!!!!!



スポーツ馬鹿だけあって、張り出した胸筋、6つどころか8つに割れた腹筋、贅肉一つ無い完璧な上半身が露になる。

きっと体脂肪は0%だ......。(←ンな筈なし)

Tシャツを放り投げると、タロはあたしに向き直ってニィ、と笑う。

あれ、どうしたんだろ、あたしの目?
タロがとーーーーーってもセクスィ~~に見える。
500%以上美化されてる!

ただのヘタレ顔で笑っただけなのに。

タロの顔が、ムキムキ上半身でランウェイを闊歩するパリコレの男性モデルに見える!

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ.........。
心拍数も心なし上がってきてて...。

あした眼科へ行こう。
ついでに心臓外科にも行って置こう。


「あーーーーっ、ミーナ俺に見惚れてるぅ~~~~」
タロがボーっとしているあたしを指差す。

「ん、ん、んな事有りません!お、男の体なんて見慣れてるんだからねっ」
あたしの言葉を聞いて、タロが不快そうに眉を顰める。
「見慣れてるんだぁ。ふうん......。じゃあさあ、ミーナ......」
タロがジャージズボンに手をかけた。
「俺、これだけは言えるよ」
焦らす様に、ジャージと穿いているトランクスを徐々に下に下ろしていく。
毛の少なめなギャランドゥ~から続いている、濃い茂みがチラリと顔を覗かせる。

「これがミーナの見る、最後の男のハダカになるって」
言うなり、一気に全てを脱ぎ去った。












わお。






What a 〇×〇×!!









朝顔の蕾みたいにちっこかったアレは、今じゃその何倍もの体積を誇っていて、先ほどの愛撫の名残か、半分だけ首をもたげている。
茂みから顔を覗かせている袋は大きめで、そこから伸びている根元は太め、形良く膨らんで柔らかそうな先端はピンクに色づいている。
いや、息づいている。

「これがミーナの見る、最後のち〇こだよっ」
タロは気恥ずかしそうに頭を掻きながら横を向く。

「すごっ...」
思わず正直に、感嘆の声が出てしまった。

だって、半分だけ起っていたそれが、徐々に赤く色づきながらカサを増して上を向いていくのを見てしまったから。
「ミーナに...見られてるってだけでぇ.........俺、反応しちゃうしっ」
タロはチラリ、と横目であたしを見る。
物凄く恥かしそうで、顔が真っ赤になっていた。

やがてタロは驚きのあまり絶句しているあたしの横に腰をおろした。
「ううっ......ゴウモンだあ.........」
タロは再度頭を仰け反らせて腕で両目を覆い、大きな溜息をつく。
「俺、超ミーナが欲しいよ............」
切なげに呟く。
近くで見るソレの鈴割れた先端は、もう微かに潤みを含んでいる。



タロが、我慢...してる。





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