一瞬だけ。 
ずいぶーん昔、この居間でプロレスごっこして遊た時のあたしと健人の思い出がちらりとあたしの頭を過ぎった。 
子供の頃は、ふてぶてしくあたしを「お姉ちゃん」じゃなくて「愛理」呼ばわりする(と、言っても実際声に出して言っていたワケじゃなけど)健人が、憎たらしくてたまらなかった。
何度、「お姉ちゃんって言いなさいよ!」って脳内会話中、怒った事か。
実際、健人があたしを「お姉さん」呼ばわりするのは、何か企んでいる時か怒っている時だけ。
「ねえ、姉さん。悦子の気持ちはともかく、俺の気持ちも考えた事ある?」
今も猛烈に怒ってる。
たぶん誰でもこの場に居たら、健人のブリザードとファイアーが混ざったみたいなすんごいオーラかんじると思う。
一気に猛暑と寒波が押し寄せた感じってか、サンバ(←熱いイメージ)とコサックダンス(寒いイメージ)の結婚ってか…。
「さっ、晩御飯晩御飯~~。健人はもう食べた?何か作ろっか?」
声に出しながら、するりと笑顔で逃れようとすると、ぐわしっ!!って腕を掴まれた。
“今日、宇田川に会ったね?それで、カバンの中のクリアファイルの…三○茶屋のアパートを紹介してもらった上、土曜日の約束に到ったわけだ?”
ぐ…っ。
カバンの中までチェックされてる。
開けてる形跡なかったのに。
姑ですか、あんたは!
健人はフッと一瞬目を逸らして、またあたしを長い睫毛に縁取られたキレイな黒い双眸で見つめる。
腕を掴んでいる手の力が、グッとこもる。
“なんで愛理は焦ってないの?”
「痛いっ。腕痛いよ健人!」
ちょっと大げさに健人の手から逃れようと体を捻って動かす。
なのに、健人は空いていたもう1つの腕も掴んで、あたしをソファーまで引っ張った。
って、傍から見るとデパートとかでよく目にする、オモチャ欲しさに手足バタバタさせてダダをこねてる子供(あたし)に、力づくで言う事聞かせようとしてるお父さん(健人)って状態。
「イタッ!暴力反対!!!はんたーーーーっい!」
なんて叫びも空しく、健人に抱き込まれる。
ヲイヲイ、至近距離戦ですか。
まんじ固めと来ましたか。
こっちはアリキックで応戦・・・じゃなくって、良い子の皆はプロレスごっこは家の中ではやめましょうね。
ってちがーーーーーーっう!
「健人、やめて!」
あたしの動きを両腕両足で封じながら、首筋に健人の吐息がかかる。
胸をまさぐられた。
親指で、さっと胸の先端あたりをブラとニット越しに擦られる。
「んっ…あ!」
やばっ。
こいつ、あたしの性感帯全部知ってやがる。
的確に、無駄無しでスポットをついてくる。
ジュッ・・・って下肢が熱くなるのがわかった。
健人はあたしの胸の間に顔を埋めながら、素早くあたしの穿いてるギンガムの膝丈パンツのジッパーを降ろす。
白いVネックのニットも、気付いたら捲り上げられてブラ姿になってた。
「あんっ」
また、声が出た。
健人の手の平が、あたしの下の柔らかい部分を包み込む。
つーーーっと割れた線にそって、中指を動かす。
喘いでしまった声に反応するように、健人はあたしの胸の間から顔を起こす。
上目遣いにこっちをみる。
“もう、濡れてるね”
って、口パクであたしに伝えてくる。
ああもう!
ちょっとドキッた自分が嫌だ。
なんてセクシーな顔してんの、健人のクセして!
「わかってるよ!健人のばかぁ!」
薄い布地越しに、健人の指が動いて小さな真珠がある近辺をグリグリ弄った。
~気持ちいい?~
脳内会話出来ないのに、なのにそんな声が聞こえてきそうな余裕の笑顔をあたしに向けてくる。
「はぁんっ……やっ……んんっ。もっ……と……」
満足そうに小さく頷くと、あたしの声に反応するように健人の指が横からスッと入って来た。
 「ああ!!」
 ちゅぷっ。
音を立てて、指が濡れた花弁を撫でる。
気付いたら、健人はあたしの胸の先を形の良い口に含んでた。
もう片方は、健人の空いていた方の手の中。
「ん……あぁ…っあ……も、やめ……っっ」
やめないで。
あたしの理性が吹っ飛びそうになってる(いや、もうなってるか)、その時。
♪♪ユアーマイベイビー・オオー!・デーリシャスガールッ♪♪
って、この場に似合わない、やけに陽気な「あいつ」の着メロが流れた。
反射的に、ビクッとあたしの体が動く。
いきなり我に返ったあたしは、羞恥心と言葉に出来ない罪悪感に襲われた。
「やめてっ!」
力の限りを絞って、健人を押しのける
もちろん、健人には着メロは聞こえなかったハズだ。
突然我に返ったあたし(まるで突然凶暴になった動物園のゴリラ状態?)に、少しだけ驚いてる。
 
「健人、おかしいよ!やっぱあたしたち…こういうの、駄目だよ!!!」
今の今まで思いっきし反応してたのはこっちなんだけど。

長い前髪の隙間から、感情の無い眼があたしをまっすぐ射た。
そして、荒く息を吐きながら健人は体を離す。
そのまま両手で頭を抱えながら、背を向けた。
その隙に、あたしは服をかき集めてそこから離れる。
急いで乱れた衣服を身に着ける。

 
突然、後ろから「ガンッ」て健人が握りこぶしで壁をたたいた音がした。

 
驚いて振り向いた先の白い壁には、大きな穴があいていた。

「健人!」
思わず、叫んでしまった。

こんな…感情をあらわにして怒っている健人は滅多に見ない。
なのに最近、ほんとよく目にする。
そう。
あたしにマジで告ってきたあの日から。
あたしは、何にもできず金縛りにあったみたいにその場から動けなかった。
健人の心の声は聞こえないのに、彼の苛立ちが、悲しみが押し寄せる波みたいにじわじわと伝わってくる。
 
 
でも......
そうなんだ。
 
いつもなら、今までなら。

健人の苦しみの声が、悲しみの声が、あたしにははっきりと届くのに。
一語一句、はっきり伝わるのに。

それに、ここまで手荒じゃない。 
それだけ、彼が苛立っているのがわかる。
なんて思いながら、こっちに背を向けてる健人の逆三角形の背中を見つめる。
肩で息をしている。
何度か肩を上下して呼吸を整えてから、健人はこちらをゆっくり振り向いた。
無表情で唇を引き結んで、頭に置いていた手をゆっくり動かす。
“俺は…一生愛理の声が聞こえないんじゃないかって、すごく不安で怖い。いつもどうやったら今までみたいに会話できるのか。愛理の声が聞こえるのか。俺の声が届くのか。そのことばかり考えてるよ。解決策を…原因を探してる。なのに、愛理は…”
最後まで言いかけて、健人は打ち消すように首を振りながら、力なく手を落とす。
と。
また、♪♪ユアーマイベイビー・オオー!デーリシャスガールッ♪♪
ってクソ陽気な着メロが元気に流れ始めた。
あたしの視線が、テーブルの上に放りっぱなしになってる携帯に移動する。
それに応じて、健人の視線も動く。
あたしの携帯がキラキラ着信で光っちゃってるから、もう一目瞭然。
健人が顎をクイって上げて、携帯を示した。
まるで“出ないの?”って聞いてるみたいに。
あたしと健人の間に、見えないきんちょー感がびしぃぃぃって飛び交ってる。
ドラ○エで突然敵が現れた時に流れるあのBGMが、脳内で流れっぱなし。
でも、勝手に出られたり切られたりしたら困ると思って、ダイ・○ードの主人公のおっさんばり、スタントマン顔負けあくろばてっくむーぶ(つまり、体育学部卒の運動神経発揮して)で肉団子みたいにソファーを半回転しながら飛び越えて零コンマ一秒で携帯を手にする。
 
そのままリビングから駆け出た。
 
 
 
 
 
「オッス。元気か?」
マッハで階段を駆け上がって、自室のドアを後ろ手で閉めたあたしは(もちろん、しっかり鍵閉めました)、宇田川の邪気のない声を聞いて、変な安心感に包まれた。
「あ、うん。元気」
「は?ってか…なんか元気なくね?」
 
今まで気ィ張ってたせいか、突然どっと疲労ってヤツがあたしを襲う。
体が、だるい。
「え?元気元気?何?何か用?」
「用がなきゃ電話しちゃいけねぇのか?そろそろ宇田川様の声が聞きたい頃だと思ってたから、電話してやった」
「なんだそりゃ?」
ってか相変わらずわけわかんない。
 
わかんないけど、今に限っては電話してくれた事に感謝。
だって、健人とのデットヒート(死闘ってやつ?)から救ってくれたし。 
「土曜日あんたの家探し止めな。来週平日の夕方にしよーぜ。時間見つけてやるから」
いや、別にあんたの助けなんて要らないんですけど…。
「別にどーでもいいよ。あんたも忙しいみたいだし、それじゃ、また……」
「だああーーーーっ切るな!!待て!まだ続きあんだからちゃんと聞けやゴラア!」
宇田川が慌てた感じで携帯を切ろうとしたあたしを止める。             
「タ○ミネーターの新作のチケット、タダでもらった。行く気ある?」
「うっそ!クリスチャン・○ールの???!」
やべ。
今めっさ喰らいついちゃった。
宇田川のしたり顔が目に浮かぶわ。                              
「そ。クリスチャンの」
 
こいつ、あたしの好みとか、興味のある事とか最近やけに的を得てない?
っつか、餌でつってやがる…。
観…観たい……かも」←超小声
「決定な。あ、そういえばさっきあんたメールで弟がどうのこうのって言ってたけど?」
「あー、それどーでもいーから。ただのジョーク返しってヤツだから。別に来ないから気にしないで」
少し間をおいて、宇田川が返事する。
声がちこっと、低い。
「愛理、おまえ何か無理してね?っつか、変」
「別に無理なんてしてないよ」
してないけど、さっきから健人の顔が頭ん中チラついてます。
さっきの健人の眼が、頭から離れない。
言葉が胸に刺さってる。
「お前、24歳処女って悩みは俺様が解決してやったろ?今更だし、言ってみ?顔の事なら、いい整形外科医紹介してやるぜ?うちの事務所ご用達の……」
「し、失礼ね!!」
ブスなのは百も承知っすよ、兄さん。
そこにはあえて触れないでください。
「なーんだ。ちげーんだ。なら、脂肪吸引?ダイエット?ケミカルピーリング?腸内洗浄?」
「脂肪吸引なら興味がある……って、ちがーーーーう!アア…何突っ込んでんのあたし。だいたいあんたは……」
「土曜朝10時ヒルズのバー○ンシネマ前。遅れんな」
は、はあ?
なんだこの命令口調は?
「あの、ですねー宇田川さん。わたくしひとっっっっ言も行くとは行ってな……」
「そうでスねー朝倉さん。わたしまだどっきりキッスの写真アルよ」
「何語じゃ!!って、キッスの写真?あっきれた!あんたまだあれ持ってんの?つか、まだあれ引っ張るか!!!!」
がはははははっ、って宇田川の笑い声が電話越しに聞こえてくる。
「言ったっけ?俺この映画の広報担当してんの。公開試写会の舞台挨拶テレビでおたくさん観なかった?クリスチャン・○ールに会わせてやるから、来い」
「くっ………」
くりすちゃん・○ーる、会いたひ。
けど、喉から出かかった言葉をぎりぎりのどち○こあたりでセーブする。
「何か言いたい事あるなら、遠慮なく電話してこいよ。ってか、たまには愛理から電話するとか、気ぃ使え」
電話の向こうで「スタジオ入りお願いしまーす」って声に相槌を打った後、宇田川は結構まじめな声音でそう言って、「じゃあな」と言って電話を切った。
 
 
 
階下のリビングに戻ると、健人は外に出かけたのか、もうそこには居なかった。
ちょっとだけ、安堵感。
ううん。やっぱ、罪悪感なのかな。
 
いや……。
 
 
ぶっちゃけあたしは、胸にぽっかり穴があいたみたいな寂寥感を感じてた。
 
 
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